自然学習・研究機能調査検討会
最終報告書

平成14年10月

第4章
自然系博物館の整備について

最終更新日:2003/03/01


第4章
自然系博物館の整備について

 前章で述べた自然学習・研究機能の拠点施設としては、自然系博物館が考えられますが、その整備形態は従来の自然系博物館のあり方にとらわれることなく柔軟に検討する必要があります。
 本検討委員会の中間報告では、自然学習・研究の拠点施設(自然系博物館)の形態について既存の機能一体型博物館を含む以下の3案を検討対象にしました。

〔1案〕機能一体型博物館
 収集・保管、調査・研究、教育・普及、展示の機能を全てもった施設を一体的に整備する案。

〔2案〕機能分離型博物館
 収集・保管、調査・研究、教育・普及、展示の機能を「収集・保管、調査・研究」と「教育・普及、展示」の2グループに分離整備する案。

〔3案〕インターネット主体型博物館(バーチャルミュージアム)
収集・保管、調査・研究、教育・普及、展示の機能を一体的に整備するが、展示については常設展示場を持たず、インターネット上や、企画展、移動博物館等を通じてその機能を果たす案。

 上記のいずれの形態を取り入れるにしても、博物館の基本機能としての標本資料等の収集・保管と調査・研究がなくては自然学習・研究機能を十分に果たすことができません。本章では、これまで述べてきた自然学習・研究機能のあり方にそって、その目指すべき自然系博物館像とその整備計画について述べます。また、散逸の危険性が高い標本が増加している現状を踏まえ、当面の対応として散逸防止のための条件整備について提案します。


1 目指すべき自然系博物館像

 私たちの静岡県は、雄大な富士山や南アルプス、美しい駿河湾や浜名湖、水と緑の伊豆などの豊かで多様な自然に恵まれています。これまで述べてきた通り、目指すべき自然系博物館の期待される役割は、「ふじのくに ―その大いなる自然― 静岡県の自然の豊かさを未来に伝えたい」というテーマで、この多様な自然環境の保全と共生、さらに標本や自然環境を次代へ伝えるために、県民や研究機関とネッワークを組み自然を調査研究し、その成果をもって県民の自然学習を強く推進し支援するものです。
 この目的を果たすために自然系博物館では、県民に開かれた博物館として、参加、協働、交流、ユニバーサルデザイン等に配慮し、自然学習や普及活動とその支援、展示・情報発信、標本資料等の収集・保管、自然環境の調査・研究というさまざまな活動を行います。そのために、以下の点に留意して組織および施設の整備が必要です。

  • 生涯教育施設として、学校の児童・生徒も含め多くの県民が利用しやすいものとし、学習支援のできる体制を確保し、自然体験学習等を取り入れた学習システムを整備することが望まれます。
  • 博物館活動の場として、実際のフィールドや既存の自然体験施設等との連携を視野に入れ、既存施設や地域の自然(フィールド)も活動のエリアにしながら、博物館活動の全県的な展開を目指していくことが望まれます。
  • インターネットやデジタル技術などのIT技術を積極的に活用して、展示や情報発信、コミュニケーションに利用するための人材やシステムの確保が望まれます。
  • 収集・保管および調査・研究の機能については、博物館活動の基本とし、必要な専門研究分野の学芸員ないし研究員を確保することが望まれます。
  • 県内外の自然研究機関や大学、自然研究・保護グループと交流や協働し、そのネットワークを構築・運営し、学習・研究を支援することが望まれます。


2 二段階整備計画

 自然系博物館の整備には、標本収集や調査研究などに長期間を要することを考慮すれば、県内の研究者の所有する標本資料を適切に保全するための措置を行い、その後に本格的な博物館整備に着手する等の段階的な対応についても検討することが必要です。
 以下に、自然系博物館の整備について、機能一体型博物館を目指すものの、標本資料等の収集・保管と調査・研究機能を優先させて段階的に整備を行う二段階整備計画を提案します。

(1) 第一段階

 ア 散逸する危惧のある標本・資料の収集・整理
 収蔵スペースを確保し、散逸する危惧のある標本・資料を率先して収集・保管し、同時にそれらを整理してデータベース化を図ります。また、その他の標本・資料等についても積極的に収集・整理を進め、博物館資料の充実に努めます。

 イ スタッフの充実と人的資源の活用
 収集・保管および調査・研究に関する人材や将来の自然系博物館の運営に携わる中心的なスタッフを確保します。また、県内外の研究機関や研究グループと連携・協力できる人的ネットワーク・組織的交流体制を構築し、第二段階の実施計画策定への参画を得る活動を行います。

 ウ 調査研究・情報集積の推進
 静岡県の自然環境に関する総合的な資料・情報収集を図り、また調査研究活動や研究交流を推進するとともに、その成果を公開し、第2段階の実施計画に活かす活動を行います。

 エ インターネットを使った収蔵標本や調査資料等の公開
 インターネットを通じて、収蔵標本・資料等のデータベースや調査研究の成果を公開するとともに、データの集積を進め、教育・普及活動に活用します。

 オ プレ博物館活動と県民意識の醸成
 収蔵標本・資料等の特別展示会やインターネットを活用したレファレンス活動等、多様な普及活動を実施し、自然学習・研究機能の成果を広く県民に還元することにより、自然系博物館設置への理解と県民意識の醸成を図ります。

 カ 第二段階の実施計画の策定準備
 静岡県の自然に関する標本・資料の蓄積、総合的研究、連携・交流体制の確立、県民意識の醸成等の成果を踏まえ、自然系博物館の施設整備計画を含む第二段階の実施計画(博物館活動計画、施設整備・展示計画、管理運営計画等)を策定する準備を行います。
 

(2) 第二段階

 自然学習・研究機能の理念やそのときの現状を検討して、第二段階の実施計画を策定します。策定にあたっては、静岡県の自然系博物館構想を具体的に提示し、その上で今回行ったよりも具体的な費用便益分析、タウンミーティング等を行い、直接県民の意向を反映させるなど、政策形成過程における県民参加を図りながら、検討を進めていく必要があります。


3 散逸が危惧される標本・資料の収集・整理について

(1) 緊急に収集・保存すべき標本・資料

 静岡県は平成9年から12年の4年間で、県内20名(動物14名、植物10名、地学6名)の自然関係の標本について評価を行ってきました。これらの評価を通して、県内の絶滅種を含む貴重種や静岡県を特徴づける種などの重要な標本が存在することが明らかになりました。緊急に収集・保管すべき標本として、標本評価のすんでいる20名の標本コレクションのうち、もっとも消失・散逸の可能性のあるものを優先して行いますが、とくに採集者の死去により保管不能になった標本コレクションは危急を要します。
 その次に、採集者が高齢者なため保管困難な標本と、保管場所の確保が困難な標本などが、緊急に収集・保管すべき標本コレクションとしてあげられます。これらについても、早急に採集者と委譲・寄贈に関する協議を行い、収集・保管していく必要があると考えます。
 なお、すでに現在、静岡県には日本古生物学会から寄贈を受けた図書等があり、それらも保管・整理する必要があります。

(2) 仮収蔵施設の条件

 ア 施設
 標本の仮収蔵施設としての最低条件として、単なる倉庫ではなく、人の居住も可能な管理された建物の中に以下のような複数の部屋が必要です。仮収蔵施設としては、緊急受け入れ標本から当面の面積を試算し、〔 〕の中には最低の面積を示します。
 ・一次保管室〔30u〕
 ・収蔵室
  乾燥系(小型動物標本〔60u〕、植物標本〔60u〕)合計〔120u〕
  非乾燥系(液浸標本) 〔60u〕
  重量系(岩石・化石・動物標本)〔180u〕
 ・標本作製整理室
  乾燥系 〔30u〕
  非乾燥・重量系 〔60u〕
 ・研究室 〔60u〕
 ・図書室 〔60u〕

 なお、仮収蔵施設として付随する設備や留意すべき点について以下に示します。
  • 各収蔵室には整理棚や整理庫が必要で、図書室には書架、標本作製整理室には、標本整理に用いる顕微鏡や写真機材等の最低限の設備が必要になります。
  • また、重量系の収蔵室と図書室については、床の耐荷重が問題になる場合があります。
  • とくに、大型標本や重量物の搬入に関して、搬入・搬出のための出入口と室内・屋外でのその経路が確保されているかが問題となります。
  • 研究室にはデータベース作成や資料データ処理のためのコンピュータ等やインターネット接続可能な設備が必要となります。

 イ 組織・人員
 標本の仮収蔵に要する人員としては、動物・植物・地学(化石)の3分野の専門学芸員(3名)とともに、博物館の情報処理関係に精通した専門学芸員(1名)の少なくとも合計4名の学芸員が必要です。しかし、これらの分野を重複しているカバーできる場合には、最低2名の学芸員で当面業務を遂行することも可能です。これらの学芸員は人材として以下の能力・資質をもつものが望まれます。
  • 専門分野の標本について分類し記載する能力をもつ。
  • 標本の整理・保管について知識と技術をもつ。
  • 標本やそれら動植物の生態などの自然学習について教育者としての能力と資質をもつ。
  • 専門分野の研究や市民による自然調査の指導者としての能力と資質をもつ。
  • 博物館の情報処理および情報発信について知識と技術をもつ。

 標本を保管・整理する学芸員は、標本の分類を専門としている必要がありますが、各分野で専門領域が細分化されているため、それに適した人材をすべて雇用することは不可能です。また、大量の標本の分類・整理は、長い時間と大変な労力を必要とします。したがって、保管・整理にあたっては、標本ごとに適切な専門家に依頼して指導を受け、さらに自然研究グループ等との協働やボランティアの協力を受けて行う必要があります。

(3) 仮収蔵施設における博物館活動

 仮収蔵施設では、自然系標本の保管・整理を遂行するとともに、自然学習・研究機能をもつ自然系博物館の構築準備とその博物館活動を展開できる体制を準備することに努める必要があります。仮収蔵施設において期待される博物館活動を以下に示します。
  • 収集標本の整理・保管とそのデータの公表。
  • 自然学習のためのプログラムや教材の提供。
  • 自然環境の調査研究および収集活動の実施。
  • 県内の自然系関連施設との自然情報に関するネットワークの構築。
  • 県内の自然研究・自然保護グループとの連携・協働による自然調査や自然学習の実施。
  • 企画展の共催やウェッブ上での交流活動による、県民とのパートナーシップの醸成。



 ●目次
 ●はじめに
 ●第1章 持続可能な未来を拓く基本的な考え方
 ●第2章 自然学習・研究のあり方
 ●第3章 自然学習・研究の拠点施設のあり方
 ●第4章 自然系博物館の整備について

付録 検討資料等
 資料
  1 自然学習・研究機能検討会の目的と検討経緯

  調査報告書
    自然系博物館に関する県民アンケート調査報告書 (別冊)
    学校教育と博物館に関するアンケート調査報告書 (別冊)


 

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登録日:2003年3月1日