自然学習・研究機能調査検討会
最終報告書

平成14年10月

第2章
自然学習・研究のあり方

最終更新日:2003/03/01


第2章
自然学習・研究のあり方

 第1章で述べた基本的な考え方を踏まえ、今後の静岡県における自然学習・研究のあり方について検討すると、以下のとおりです。


1 自然学習・研究の現状と課題

 「環境の世紀」を拓く“持続可能な社会”をつくることは、全ての県民の願いです。静岡県は、富士山、駿河湾、南アルプス、浜名湖、伊豆半島など、多様な自然環境に恵まれておりますが、最近では、富士山のごみ・し尿問題、森林の荒廃、絶滅が危惧される動植物種の増加等が問題になっています。
 一方で、静岡県においては、環境問題に主体的に取り組む個人、団体の活動も盛んになっていますが、一部にとどまる傾向があり、いかに一般県民の行動にまで広げるかが課題です。
 また、若者の理科離れや自然体験の不足が指摘される中で、自然科学の健全な発展を図るため、いかに自然について学ぶことへの興味・関心を持てるようにするかも課題です。自然から問題を発見しそれを解決していく能力を養うこと、そして、それらの体験・学習を生きる力に転化していくことは、21世紀の持続可能な社会を支える人づくりの観点からも重視されています。
 さらに、自然学習を支える調査・研究機能の一層の充実も課題になっています。

2 自然学習・研究の目標

 静岡県においても、環境と調和した“持続可能な社会”をつくるためには、環境及び環境問題に関する関心・意欲・態度、思考力・判断力、技能・表現、知識・理解を育み、実践力を培うこと、その基礎となる自然環境の調査・研究の水準の向上を図ることを目標に、自然学習・研究機能の充実を図ることが重要です。具体的には、以下に掲げる目標項目があげられます。
 
(1) 自然学習の目標

 静岡県の環境教育・環境学習の目標は次のとおりです。

目標項目 目標の内容
関心・意欲・態度 環境及び環境問題に主体的にかかわった経験などに基づいた「関心・意欲」、より良い環境の創造活動に主体的に参加し、環境への責任ある行動がとれる「態度」
思考・判断 環境の保全に関する自分の課題や意図などを解決したり、実現したりするため、その解決や実現の方法を考えたり、判断したりするのに必要な資質や能力としての「思考力」・「判断力」
技能・表現 環境の保全に関する自分の課題や意図などを解決したり、実現したりするために考えたり、判断したりしたことなどを、環境の保全に配慮した望ましい働きかけとして具体化するために必要な「技能・表現」
知識・理解 関心・意欲・態度、思考力・判断力、技能・表現の支えとして働くものとして、主体的な学習活動を通して、新たな学習や生活に生きて働くように獲得した、環境及び環境問題に関する「知識」や人間活動と環境のかかわりあいについての総合的な「理解」

(参考)「ふじのくに環境教育・環境学習基本方針」静岡県・静岡県教育委員会

 自然学習については、こうした環境教育・環境学習の重要な基盤をなす一つと考え、更に以下のような目標を掲げます。

目標項目 目標の内容
郷土愛や誇りの育成 子どもたちや親子が地域の自然と体験的に接する中で、自分たちの住む地域の自然環境についての関心を持ち理解を深め、地域の自然について親しみや誇りを育むこと。
自然を愛し科学する心の育成 生涯教育や学校教育の多くの機会を活用して、地域の自然や県全体の自然環境に対する県民の知的探究心を育み、自ら地域の自然環境から問題点を見出し調べようとする態度を育てること。
静岡県の自然の保全と継承 県下の自然環境の変化や保全に関して学習を深めることができ、さらに静岡県の自然遺産を次世代に継承できるようにすること。

2) 自然環境の調査・研究の目標

自然環境の調査・研究は,われわれの生存基盤についての知識を深め、各種の学術活動への貢献とあわせて、県民の自然に対する学習・理解を深める手段となり、郷土愛の育成の基盤にもなります。また、子どもたちや県民自らが主体的に調査研究に参加・協働することにより、自然観や生きる力を養い21世紀の人づくり・社会づくりにも大きく貢献します。

目標項目 目標の内容
調査・研究成果等の継承 静岡県の豊かな自然環境に関する標本資料、調査・研究の成果等を次代に継承すること。
調査・研究成果等の活用 静岡県の豊かな自然環境に関する標本資料、調査・研究の成果等を国内外の研究者・研究機関等が有効に活用できるようにすること。また、それらのデータベースを自然環境の長期的なモニタリングに活用することで自然保護運動や環境保全政策にも貢献すること。


3 自然学習・研究の基本方向

 上記の目標を達成するため、自然学習・研究の基本方向としては、以下のことが考えられます。

(1) 自然学習の基本方向

 ア 自然学習の機会の拡充
 県民が環境問題について具体的な行動を始める契機となる自然学習の機会の充実を図り、県民総ぐるみでの自然環境保全活動を促進するために、主体的活動に取り組んでいる個人、団体への支援等が求められます。
 また、学校における総合的な学習の時間の本格的な導入や完全学校週5日制の実施を契機に、家庭や地域で、子供たちが自然体験を通じて自然学習に取り組む機会を拡充することも大切です。
 さらに生涯学習社会においては,県民全体が自然の成り立ちについての理解を深め,郷土の自然への愛着や誇りをもてるような機会の拡充も,環境保全の基盤として重要です。

 イ 総合的な自然学習の推進
 自然学習については、生物と生息環境、生物相互の関係、自然と人間のかかわり方など、総合的に学習する必要があります。
 また、県民の自然環境の疑問に答えるレファレンス機能をワンストップで対応し、関心や興味をさらに高めていくことも大切です。

 ウ 自然学習の内容の充実
 子供から大人までの発達段階に応じて、効果的な自然学習を進めていくため、実物資料や最新の研究成果を利用した学習プログラムや学習教材の開発が必要です。

(2) 自然環境の調査・研究の基本方向

 ア 総合的な調査・研究の継続
 本県の自然環境について適切に把握するため、総合的な調査・研究を継続的に進める体制の整備をすることが大切です。

 イ 標本資料の適切な収集・保管
静岡県の自然の実態や過去から未来に向けての変遷を物語る標本資料、研究者が保存する様々のデータ・情報は、調査・研究を進めるための基礎的な条件となることから、県内の研究機関等において適切に収集・保管することが求められます。

 ウ 調査・研究成果の公開の推進
本県における自然に関する調査・研究機能の充実を図るには、調査・研究の成果、自然学習や環境問題に取り組む個人・団体の活動の成果を広く公開することも必要です。


 ●目次
 ●はじめに
 ●第1章 持続可能な未来を拓く基本的な考え方
 ●第2章 自然学習・研究のあり方
 ●第3章 自然学習・研究の拠点施設のあり方
 ●第4章 自然系博物館の整備について

付録 検討資料等
 資料
  1 自然学習・研究機能検討会の目的と検討経緯

  調査報告書
    自然系博物館に関する県民アンケート調査報告書 (別冊)
    学校教育と博物館に関するアンケート調査報告書 (別冊)


 

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登録日:2003年3月1日