自然学習・研究機能調査検討会
最終報告書

平成14年10月

第3章
自然学習・研究の拠点施設のあり方

最終更新日:2003/03/01


第3章
自然学習・研究の拠点施設のあり方

 静岡県において、第2章で述べたような自然学習・研究機能の充実を図るには、そうした機能を発揮する土台となる自然学習・研究の拠点施設のあり方について検討する必要があります。このことについて本検討会で具体的に検討した結果は、以下のとおりです。


1 県内の自然学習・研究機能をめぐる現状と課題

  (1) 自然学習・研究の拠点施設に関する県民および学校教育のニーズの現状

 自然学習・研究の拠点になりうる施設を新たに構想すると、県民に対して常に開かれ、働きかけを行う社会教育施設としての自然系博物館が考えられます。しかし、今後、仮に自然系博物館を県の施設として整備していくと、県民の多くの負担を伴うことになります。このため、こうした施設の整備に対する県民のニーズがあるのか、また、整備後は多くの来館者を迎えることができるのかを正しく把握した上で、構想の検討を進めることが必要と考えられます。
 そこで、本検討会は、自然系博物館に対する「県民ニーズに関するアンケート」と「学校教育と博物館に関するアンケート」を実施しました。「県民ニーズに関するアンケート」では、併せて県民ニーズを定量的に分析する費用便益分析を実施しました。

 ア 県民ニーズに関するアンケートの結果概要
回答者の52.8%が自然に関する施設が不足していると回答し、さらに新たな自然系博物館が整備された場合「行ってみたい」と答えた回答者が72.6%にのぼりました。また、費用便益分析結果では自然系博物館整備に対する県民の期待満足度を表す県民の「支払意志額」=「県民の便益総額」は整備・運営費用を上回り、「社会教育施設としての自然系博物館の検討を進めるに値する県民のニーズが存在している」ことが確認されました。詳細は添付した報告書を参照してください。

 イ 学校教育と博物館に関するアンケートの結果概要
 県内のすべての小・中・高校および養護・盲・聾学校を対象に行ったアンケートでは、昨年度1年間で博物館等を見学した学校は、全体の72.5%で、さらに、自然系博物館が整備された場合「見学したい」と答えた学校が75.7%にのぼるなど学校教育での活用希望が非常に大きいことが確認されました。博物館の内容としては、「展示構成の学習内容への対応」「自然環境・生態系や環境問題への対応」「参加体験できる展示」等への要望が大きく、また、設置場所については、それぞれの学校の近隣への設置希望が強く表れ、近隣でない場合はインターネットを活用した情報発信や、学芸員の派遣による出前博物館が求められていました。詳細は添付した報告書を参照してください。

(2) 県内の自然学習・研究施設の現状と課題

 平成13年度の自然学習・研究機能調査検討会では、県内自然系関連施設設置状況(資料2)を整理しました。それによると県内の自然系関連施設は総計90箇所あり、それぞれ大学を含む試験研究機関33箇所、博物館及び類似施設等50箇所、環境学習・体験施設7箇所に区分しました。このうち県立の機関・施設は26箇所です。自然学習・研究機能の充実という観点から見て、県内の自然学習・研究施設の現状と課題を列挙すると、次のようなことがあげられます。
 なお、全国の設置者別博物館数(資料3)と都道府県立博物館の設置状況(資料4)によると、静岡県には県立美術館以外、県立の博物館施設がなく、これは他県と比較して極めて少ない状況にあります。

  • 自然分野の研究機関、民間の自然系博物館、自然体験施設等は、いずれも特定の分野を専門とし、特定の分野についての研究や展示にとどまっており、県全体の自然を総合的に調査・研究し、学習するには十分とはいえません。
  • これらの自然分野の研究機関での相互の研究協力やネットワークはほとんどなく、また共同して静岡県の自然環境の調査などを実施した例もほとんどないと思われます。
  • これらの自然系関連施設における静岡県の自然に関する標本・資料等の収集・保管については、静岡大学や東海大学などのいくつかの施設を除き、ほとんど行われていないと思われます。
  • 自然学習・研究等に取り組む県内の個人や団体の活動も十分に県民の間に知られていない状況にあります。
  • 自然環境に関する調査・研究の成果や情報が広く公開されていません。
  • 静岡県の自然について学習するための施設や組織的にそのような学習機会を実施する機関が少ないため、子どもたちを含め県民が静岡県の自然について学習する機会は不足しています。

(3) 県内自然系標本・資料の現状と課題

 静岡県が行った平成8年の資料・文献等調査では、自然系標本・資料について県内の84名の研究者等にアンケート調査を行い、49票の回答のうち39名のコレクションについてリストし、アンケート回答者の中から11名12ヶ所を実地視察した報告がされています(資料5)。これによると、延べ51,234種、507,892点が県内の個人により収蔵されていることが明らかになりました。
 つづく平成9年〜12年の4年間で、静岡県では平成8年のリストにあった26名の標本評価を行っています。これらの評価では、県内の絶滅種を含む貴重種や静岡県を特徴づける種などの重要な標本が存在することが明らかになると同時に、それに付随して過去の採集記録として意味ある一般の種の標本も数多く存在していました。
 しかし、これら個人が保管する標本・資料のほとんどは、保管場所の確保が困難であることや、採集者が高齢のため適切な管理に支障をきたしたり散逸の危機にあることも明らかになりました。さらに、採集者の死去にともない家族または知人に預けられている標本もいくつかあり、すでに他県の博物館などに寄贈された標本もありました。
過去から未来に向けて自然の変遷を伝えていく証言者ともいえる科学的標本資料の散逸が現在懸念される状況にあります。


2 自然学習・研究の拠点施設の目標

 私たちの静岡県は、雄大な富士山や南アルプス、美しい駿河湾や浜名湖、水と緑の伊豆などの豊かで多様な自然環境に恵まれています。このような美しい静岡県の自然を県民とともに理解して、共生しながら未来に伝えていくためには、自然学習・研究の拠点施設が必要です。
 本検討会では、県民のニーズとその意見や県内の自然学習・研究機能等の現状と課題を踏まえながら、既存の博物館等の現状(資料6)に学び、IT 技術の活用、研究機関や自然体験施設等とのネットワーク、さらには運営に関する県民との協働のあり方等について検討を深め、以下のような5つの目標を設定しました。

(1) 静岡県の自然を愛し科学する人づくりのために

 私たちの生活は自然の中で営まれていて、その自然についての理解が社会や人づくりの原点でもあります。しかし、静岡県の自然をどれだけの県民が理解しているでしょうか。また、それを理解するために学ぶ機会が県民にはどれだけあるでしょうか。
 現在、子どもたちは理科離れや自然離れといわれ、自然と接する機会が少なくなっています。そのような点から、児童・生徒の自然学習や環境教育のために自然と体験的に接して学べる場や、自然について学ぶ県民が自発的に参加できる生涯教育の場が求められています。そして、そのような活動への参加を通して、郷土の自然を愛する心や科学する心が育まれていきます。そのためには、自然を理解するために学ぶ機会を提供する体制を積極的につくる必要があります。
 県内では現在、自然関係の研究者が高齢化する一方、若い研究者や自然を愛好する子どもたちも育ってきていません。このままでは、郷土の自然だけでなく、自然を愛し科学する心までも私たちは次代に伝えることができない可能性があります。そうならないためにも、自然を愛し科学する人づくりを進めていかなくてはなりません。

(2) 静岡県の自然についていつでもどこでも誰でも学べるために

 静岡県の自然について、いつでもどこでも誰でも学べる体制が必要です。静岡県は自然が豊かで、どこにいてもそこは自然の博物館そのものです。しかし、自然の中にいるだけではその自然を十分に理解することや自然環境の問題点も分かりません。自然学習・研究の拠点施設は、静岡県の自然の成り立ちや現状、各地域の自然の特徴などについて、互いの自然現象や生物の分布・生態を体系的に関連させて分かりやすく紹介し、静岡県の自然への入口となる必要があります。
 また、静岡県のどこにいてもいつでも、静岡県の自然について学べるような機能を充実させることも大切です。そのためには、インターネットなどの新技術を活用して、自然に関する情報発信や普及活動を行うこと、県内の自然関係施設や自然学習・研究活動を行っている機関・グループとネットワークを組み、自然について学べる機会をどこでも提供していくこと(標本キットの遠隔地への提供や自然観察会などの協働)が必要です。さらに、拠点施設での調査・研究・収蔵などバックヤード自体をも公開・展示対象とすることで、県民に開かれた拠点施設としての機能を充実させることが考えられます。

(3) 静岡県の自然環境の保全と共生のために

 静岡県は自然が豊かといわれるものの、最近では森林や里山の荒廃が叫ばれ、貴重な動植物の生息地も損なわれつつあります。県版のレッドデータブック(絶滅の危惧される動植物に関する資料集)の編纂も進んでいますが、ほとんどの分類群で絶滅の危惧される状況が進行していることが報告されています。貴重種だけが重要で守るべきものではなく、自然全体があって貴重種も守られます。このまま放置すれば貴重な自然環境は失われていくばかりです。また、静岡県は洪水や高波、地震、火山噴火等の自然災害の多い県で、自然への十分な理解なくして、私たちは生活を守ることもできません。
 今こそ、私たち県民一人ひとりが自然と共生する暮らしのあり方を考え、自然環境の保全に取り組むことが求められています。そのためには、県内の自然環境の現状やその成り立ちについての理解を深め、また自然環境の保全や防災に関する知識を高めることがその第1歩だと考えます。
 したがって、自然学習・研究の拠点施設では自然環境に関するよく整理された情報を県民に分かりやすく発信し、自然環境の調査や保全等の活動をしている機関や団体と交流することが必要です。

(4) 散逸や消失してしまう標本・資料を次代へ伝えるために

 静岡県には貴重な動植物標本や過去の歴史を語る岩石や化石などを個人的に収集保管している方がおられますが、これらの多くは現在散逸の恐れがあります。また、県内には絶滅の恐れのある動植物も多く、これらの存在していることの記録や標本としての保管も自然環境を知る上で大切です。さらに、個人の努力では収集や維持が不可能な巨木や露頭などの大型標本や特徴的な自然環境そのものもあることを忘れてはならないと思います。
 自然環境の中では、一度失われたものを取り戻すことはできないために、散逸しそうな標本や絶滅しそうな動植物の標本については、できるだけ早く収集・保管する必要があります。また、静岡県に分布する動植物や岩石・化石のすべてについて、段階的に標本を収集して自然環境調査の基礎資料とする必要があります。さらに、重要なものについては保全や収集を図ることはもちろんですが、その分布する自然環境自体を保護し次代に継承する必要があります。
 この標本や自然環境を次の世代へ継承する活動は、一部の専門家だけがやる、またはやれる活動ではなく、多くの県民の協力を必要とします。

(5) 静岡県の自然の豊かさへの理解を深めるために

 静岡県の自然の多様性はどのようにして成り立ち、そして現在どのように変わりつつあるのでしょうか?この問いかけに答える努力をつづけ互いに対話を持つことこそ、静岡県の自然の豊かさへの理解をより深めることに他なりません。
 静岡県は、地質構造においても、また生物地理においても東日本と西日本のフロンティア(本州のおへそ)に位置しており、自然環境やその成り立ちを現地で学べることは県民にとって大きな恵みであると考えます。また、静岡県での新たな自然観の発展は、広く一般に「島弧」の自然環境と生物相の成立過程やそれらとの共存のあり方を世界に示していくことができます。このように他県にはない自然の財産について、標本・資料等を収集・保管、調査・研究することは、自然学習・研究の拠点施設としての活動の基礎資料をつくることであるとともに、静岡県から世界に向けた新たな自然観の創造と発信にもつながります。


3 自然学習・研究の拠点施設のテーマ

 拠点施設においては、自然学習・研究の目標を具現化するために、学校現場における環境教育、広く県民の生涯学習支援に資するとともに、県内の自然環境の保全や持続可能な社会・人づくりに貢献するような、求心力のあるテーマ設定が必要です。本章では、多様で豊かな静岡県の自然を表現するテーマとして以下の提案をします。

(1) テーマタイトル

 ふじのくに 〜その大いなる自然〜
  静岡県の自然の豊かさを未来に伝えたい


(2) テーマ内容

 テーマタイトルをより具体的に表現するために、つぎの3つの項目(軸)にそって立体的に静岡県の自然学習・研究のテーマとメッセージを構成していきます。

 ア 水の旅 水の循環からみた静岡県の自然(プロローグ)
 静岡県の豊かで多様な自然の現状を実感するために、「水の循環」という視点から静岡県の自然をめぐる旅にでかけてみよう。静岡県には天竜川、大井川、安倍川、富士川、狩野川など日本を代表する河川があり、富士山には永久凍土や湧水、伊豆には温泉、西部地域にはため池や浜名湖、そして南側には駿河湾や遠州灘が広がり、深海には海洋深層水もあります。静岡をめぐる水循環の代表的ないくつかのコースを、「水」になって源流から中流、下流、河口域、海岸−沖合域と旅をすることによって、静岡県の現在の自然の多様さや豊かさについて体系的に認識することができ、さまざまな展開や驚きが期待されます。
 静岡県には高山帯から里山、河川、汽水域、陸棚浅海域、深海域までの各種の自然環境が一セットそろっていて、しかもそれらは人間活動の影響圏にあります。静岡県は自然界をめぐる物質循環を考える上で世界の中でもモデルとなる地域の一つと言えるでしょう。河川の水は陸から海に向かう物質循環を担っていて、静岡県の海洋生態系にも大きく影響を及ぼしています。静岡県の自然が多様であること、そしてそれらの多様な自然は個々が独立しているのではなく互いにつながりをもっていることを訴えたいと思います。

 イ 多様な自然のドラマ(メインテーマ)
 現在の静岡県の自然がいかに豊かで多様なものかを実感したら、今度は時間の旅にでかけて、静岡県の自然の生い立ちをたどってみましょう。静岡県の地形・地質の成り立ちや、そこに生きる動植物の種類や生態は、中緯度帯における地球と生命の相互作用の織りなすシンフォニーとも言えます。
 静岡県はユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートの境界付近に位置しているといわれ、世界的に見ても特異で活発な地殻変動帯にあるといえます。地殻運動は、東日本と西日本とを隔てる糸魚川―静岡構造線やフォッサマグナなど本州弧の重要な地形・地質構造を形成し、高山から深海までのさまざまな自然環境をかたちづくってきました。
 静岡県にはそのような多様な自然環境にさまざまに適応・進化した多彩な動植物が生息しています。重要なことは、県中央部から東部にかけての地域が、東日本と西日本を隔てるフォッサマグナにあたり、その地域が数百万年前まで海だったことから、動植物の分布と多様性において他県では見られない特徴をもっていることです。
 静岡県は日本列島の地質構造だけでなく、生物地理区の成立過程を考える上でも東日本と西日本のフロンティアにあたっています。静岡県の自然環境と多様な生物相がどのように形成されてきたのかというドラマは、日本列島の自然史を解明していく上でも重要であり、静岡県は地球と生物の歴史を、一体感をもって語る上でまたとない地域といえます。
 静岡県には、富士山をはじめ、伊豆半島、南アルプス、浜名湖、駿河湾など自然資源または個別テーマとしても魅力的なものがあります。これらの個々のテーマに関して、地質・動植物の生い立ちや現在の生態系についての理解を深めること、そしてさらにそれら個々の自然環境の間にどのようなつながりや背景があるのかを探り、静岡県の自然の豊かさや多様性についてのダイナミクスを、一体感をもって理解を深めることがメインテーマです。

 ウ 自然との共生 未来に伝えるメッセージ(エピローグ)
 静岡県の自然の生い立ちや歴史をふまえた上で、未来へと意識を広げてみましょう。静岡県では古くからその自然を生かした人と自然の共生が行われてきました。しかし、ここ数10年間の社会や経済活動の急激な変化によって、里山などに代表される人と共生していた自然の荒廃や自然破壊が広がっています。「静岡県は自然の豊かな県である」といわれてきましたが、その自然環境に関する体系的な研究は現在ほとんどなく、その標本や資料も蓄積されていません。静岡県の現在までの自然環境の実態をきちんと把握して、そしてその「豊かさ」を次代の県民に引き継ぐための活動を、県民とともに行っていかなくてはなりません。
 また、持続可能な未来のためにどのような自然観を私たちがもつのかという課題に対しては、環境破壊や環境汚染の問題だけでなく、自然災害の観点からも自然を見直す必要があります。静岡県は火山噴火・地震・津波・海岸浸食・台風などあらゆる自然災害があり、その点で世界的に見ても特異な地域です。防災やサバイバルという側面から自然災害をとらえるだけでなく、自然の成り立ちという観点からも理解を深めてゆくことで、自然と人間との共生とあり方について、静岡県ならではのメッセージを世界に向けて発信できると思います。


4 自然学習・研究の拠点施設に期待される役割

 自然学習・研究の拠点施設がその目標やテーマを効率的・効果的に達成するためには、(1)教育・普及と活動支援、(2)展示・情報発信、そしてそれらのコンテンツを構成するうえで、(3)標本資料等の収集・保管、(4)自然環境の調査・研究という役割がかかせません。このような役割を果たす拠点施設としては、自然系博物館が最適なものと考えます。自然系博物館といっても、自然学習・研究機能を果たすためには、博物館の分類でいうと「科学(理工)」的なものではなく、「自然史」的なものになります。
 また、自然系博物館が設置されるとすると、県民に開かれた博物館として、参加、協働、交流、ユニバーサルデザイン等に配慮されるべき、と考えます。そして、その役割を果たしていくとともに、既存施設や地域の自然(フィールド)も活動のエリアにしながら、博物館活動の全県的な展開を目指していくことが望まれます。

(1) 教育・普及と活動支援

 静岡県の自然を未来に伝えていくために、子どもたちが自然と接して体験的に学び、自然環境に関しての問題解決能力を身につけられるような場や、県民が自発的に参加できるような生涯学習の場を提供し、そのような活動に対して積極的に支援する体制をつくる必要があります。また、県民の自然環境に対する知的探究心に応えたり、主体的に自然保護・自然研究活動に取り組む個人や団体の育成や支援を行い、県内の自然学習・研究活動を行っている機関・グループとネットワークを組み、自然について学べる機会をできるだけ多く提供していく必要があります。
 そのひとつの手段として、インターネット等を活用して、自然に関する情報発信や普及活動、ネットワーク作りを行う必要もあります。
 以下に学校教育と社会教育に分けて具体的な役割や必要な活動について述べます。

 ア 学校教育
  • 児童生徒が、人と自然との関わりや自然との共生の大切さを、実物標本等を使い具体的に静岡県の自然を例として学ぶことができるようにする必要があります。
  • 「総合的な学習の時間」等を活用し、自然との共生や環境問題、生態系、静岡県の自然等をテーマとして学ぶことができるようにすることが必要です。また、そのための学習プログラムや教材等を開発・提供することも必要です。
  • 学校教育で自然学習として活用できる情報をウェッブ(WEB)などで提供し、児童生徒や教師からのレファレンスに積極的に対応することが必要です。
  • 学校の教師等と共同して、学校教育で活用できる貸し出し用の自然学習用教材や、出前授業、トランク展示、インターネット等を利用した遠隔教育等の学習教材・学習プログラムの開発、各地域で活用できる学校等向けの自然体験プログラムの開発を行い、学校等へ提供するアウトリーチ的な博物館活動が必要です。

 イ 社会教育
  • ・完全学校週5日制の実施に対応し、休日に家族でゆっくり楽しみながら学んだり、自然体験学習ができる場を提供することが必要です。
  • 施設内の活動にとどまらず、公民館等の地域の社会教育施設に出向き、学びの場を提供する移動博物館、野外観察会、自然体験講座等を開催し、どこでも学習活動が展開できることが必要です。
  • 幅広い県民の興味・関心に応えるために、自然に関するデータ・情報等の公開やフォーラム、シンポジウム等を積極的に開催することが必要です。
  • 県民の自然環境に関する質問、相談等に応えるために、レファレンス活動を充実し、県内の自然環境情報についてワンストップで提供することが必要です。

 ウ 活動支援
  • 自然学習や自然保護・自然研究活動に取り組む個人・団体等を支援するとともに、協働して、自然学習や標本収集、保管整理、自然保護・自然研究活動を推進する必要があります。
  • 自然学習や自然保護・自然研究活動に取り組む個人・団体等に、データ・情報の提供や学芸員を派遣するなどの活動支援や、これらの団体等の能力向上と後継者育成をすることが必要です。
  • さらに、自然学習や自然保護・自然研究活動に取り組む個人・団体等に情報交換や交流の場を提供し、ネットワーク化を促進することが必要です。

(2) 展示と情報発信

 自然学習・研究における収集・保管と調査・研究活動の成果をもとに、自然系博物館のテーマ(「ふじのくに ―その大いなる自然― 静岡県の自然の豊かさを未来に伝えたい」)にそって、実物展示、資料展示、バーチャル展示、体感型展示を効果的に組み合わせ、臨場感があり、楽しさに満ちた子供から大人までの多様な自然学習ニーズに応えられる展示を設置することが必要です。
 提案した自然系博物館のテーマでは、プロローグとして「水の旅 水の循環からみた静岡県の自然」があり、メインテーマとしての静岡県の自然の多様性を扱った「多様な自然のドラマ」があり、エピローグとして「自然との共生 未来に伝えるメッセージ」という構成になっています。これらのテーマは上下・横・縦といったそれぞれ独立した空間軸をもち、中央でそれらが交差する立体構造を成し、エントランスは荘厳な滝のオプジェが迎えるというイメージです。
 富士山、伊豆半島、南アルプス、浜名湖、駿河湾など、静岡県の個別の特徴ある自然については、「多様な自然のドラマ」の中で主に扱われますが、これら個々の地域の自然はプロローグとエピローグの重要なテーマとしても存在します。

 ア 展示手法
 博物館における展示に関しては、その博物館の所蔵する標本や資料にどのようなものがあるかということと、その博物館がどんなメッセージを伝えたいかということが重要です。博物館は、本来、博物館が所蔵する実物(標本)を展示するものですが、実物や解説だけでは理解しにくいものや表現できないものについては、他の展示手法も加えて展示する必要があります。
  • 実物展示、資料展示、バーチャル展示、体験型展示、解説者による展示、ハンズオン展示など、多様な展示手法を組み合わせて、発見を触発し、驚き、感動、好奇心を呼び起こし、五感で確認しながら問題解決の経験ができる展示が望まれます。
  • 収蔵室や研究室、図書室、学習室等における博物館で行っている活動そのものを展示として捉えるとともに、実際に体験できるようにすることも必要です。

 イ 情報発信・マルチメディア活用
 標本収集や研究および教育活動の実績をもとに、インフォメーション・テクノロジー(IT)やマルチメディア等の新技術を活用して、情報発信や情報交流、展示を行っていく必要があります。
  • 空間や時間などに制限されないという利点を生かして、多くの人に自然系博物館の学術的または教育的資産を提供することが必要です。
  • ウェッブコンテンツアクセシビリティガイドライン(マルチメデイアの情報通信におけるユニバーサルデザインの指針)に配慮しながら、インターネットを活用し、標本資料の情報を、文字、映像、音声により世界に向けて情報発信することも必要です。

(3) 標本・資料の収集・保管

 自然に関する標本やその分布・状況を記した文章(本や論文等の文献・フィールドノートや調査資料等)・画像(写真や図等)資料等は、過去から現在までの自然環境を伝える具体的な科学的証拠です。これらに類するものとして、特質すべき地層露頭や生物のすむ自然環境そのものも含まれ、これらのいくつかも保存すべきものと考えます。
 過去に戻って標本や資料等を収集することは不可能であり、さらにいったん失われた自然は再生不能です。したがって、自然に関する標本や資料等は、静岡県の自然の歴史を示す県民の貴重な財産であり、静岡県として次代に引き継いでいく責任があります。また、これらの標本・資料等を学習や研究に活用される形に整えれば、県民が静岡県の自然環境をより理解することができます。
 県内の個人の努力で動植物・地学関係の一部分野の標本・資料等の収集および研究が行われていますが、それらが静岡県の自然にとってどんなに重要な標本であろうとも、博物館などの公的機関に保管されない限り、それらは散逸・消失する運命にあります。つまり静岡県では学術上重要な自然遺産も県内には蓄積されず、また環境問題の解決にとって重要な長期モニタリングの直接の証拠となるべき標本・資料も消滅している現状にあります。また、自然遺産のなかには、地質露頭や岩石の大型標本、鯨などの大型生物の標本など、個人の努力では収集・整備に限界のある対象があることも事実です。さらに、標本の収集・保管には専門的な知識や設備、技術等が必要となり、散逸の危機にある標本についてはできるだけ早くに公的な機関で、収集・保管し、組織的に管理する必要があります。

 ア 自然学習・研究のための標本・資料等の収集
 静岡県の自然学習・研究のための標本・資料等には、どのようなものがあり、それをどのように収集していけばよいか以下に示します。
  • 静岡県に分布する地質や化石、また生息する植物や動物は、静岡県の自然環境を構成する個々の物であり、それらの標本や分布資料は現在の静岡県の自然環境を記録し把握する上での基礎資料となります。
  • それと同時に、これらの標本は動植物を分類する上での比較標本として環境調査の点からも重要であり、静岡県に生息するすべての種について収集・整理し、活用する必要があります。
  • とくに、収集することが現在では困難な種や絶滅危惧種などの標本は、生息場のアセスメントを行いつつ早急に収集を検討する必要があります。
  • 収集・受け入れにあたっては、標本に関する科学的基礎データ(採集場所・日時など)の記録を同時に行うことが重要です。
  • 生物はそれ自体単独で生息するものではなく、それらをとりまくそれぞれの自然環境の中で生息することができるため、いくつかの特定の自然環境自体を保全し、その中に生息する生物を保護する試みも標本保存としての意味があります。
  • 同様に、失われる可能性のある特質すべき地層露頭や生物のすむ自然環境の保存を検討する必要があります。
  • 市立動物園等で飼育または治療されていた動物の骨格または剥製・液浸標本等または植物園等で栽培・植生された植物・花粉等の標本については、比較標本として重要であり、関係機関と協力ないし支援して、標本収集に努める必要があります。
  • 標本と同様に、静岡県の自然環境に関する文章・画像資料等のアーカイブスについても、収集・保管・整理する必要があります。
  • 静岡県内の自然系関連施設・機関に収蔵されている標本・資料等または自然系関連施設・機関で収集可能な標本・資料等について調査し、協力・支援する体制を整えて収集する必要があります。

 イ 収蔵施設のあり方
 標本・資料等の収蔵施設は、物を単に置いておくだけの倉庫ではありません。標本収蔵施設とは、以下のような部屋が一体となって構成される施設です。最近では遺伝子などの生化学的研究からも生物や化石標本の重要性(ジーンバンクという考え方)が指摘されているため、それに適した標本の保管や標本の質のメンテナンス、標本の保全についても今後考慮する必要があります。
 また、収蔵室の広さについては、多くの博物館で博物館の収集活動以外に、市民からの寄贈が多く、収蔵スペースが不足する例があります。そのため、収蔵室については、十分な広さをとるか、将来に拡張できる体制を検討する必要があります。

【収蔵施設の内容】
 搬入部分
  標本搬入口/荷とき場/一次保管室/燻蒸室
 収蔵部分
  乾燥系(動物・植物・昆虫)/非乾燥系(地学系・重量物・液浸)/特別収蔵室
 標本作製・整理部分
  標本作製室/標本整理室/写場室/解剖室/測定機器室/電子顕微鏡室
 学習研究・管理部分
  研究室/図書室/学習室/滞在研究者室/電算機室/事務室/管理室

 ウ 収蔵にかかわる人材のあり方
 収集・保管および調査・研究に関する人材については、地学(気象・岩石・層序・古生物等)・動物(昆虫・魚類・両生爬虫類・哺乳類・鳥類等)・菌類・植物等の主要分類群のそれぞれと生態学や自然環境学等に関して、その研究資料を国際的な研究者ともやりとりできる専門研究分野の学芸員(研究員)の配置が必要です。もちろん標本の整理に関しては、すべての専門分野に関して収蔵管理する側でカバーできないことから、県内外の研究機関や研究会、NPO、ボランティアとの協力・協働が必要ですが、研究者または学芸員は主体的な立場で整理・保管に関する作業を管理・運営できる人材でなくてはなりません。

(4) 自然環境の調査・研究

 静岡県は生物の多様性が豊かで、生物分布や自然環境の成り立ちを探求する上で世界的にも重要な地域です。また、静岡県の将来に持続可能な自然環境を求めるためには、過去から現在までの自然環境の変化を知り、そこから静岡県が望む持続可能な自然環境を設定する必要があります。
 その意味から、静岡県の自然環境の全体像を様々な角度から調査・研究して、静岡県の自然環境の現状や成り立ちを把握する必要があり、その研究成果は公開されるべきです。また、その研究成果は静岡県における自然との共生についての基礎資料としてだけでなく、自然科学分野の学術の発展や自然学習のための教材や普及活動に活用されます。
拠点施設の発信する情報や展示は、科学や時代の進歩とともに体系的に蓄積され、また更新される必要があります。拠点施設がアクティブで生き生きとしたものであるためには、拠点施設が主体的に行っている自然環境の調査・研究活動が教育や活動支援、展示や情報発信と同時進行で息づいていることが生命線であるといえます。

 ア 県内全体の自然環境についての基礎総合調査の推進
 県内の自然環境についての調査は、研究者個人あるいは研究グループごとに、地質や動植物分布など分野別にまた地域限定的に行われてきました。現状では、県内全域にわたって地形・地質および動植物分布調査が統一的に体系立てて行われたことはなく、県下の自然環境に関する基礎データづくりのためには全県的に概括的な自然環境の総合調査を実施する必要があります。この調査は既存の資料も含め、現地調査によって自然環境の把握と問題点の抽出などのための資料収集を行うことからはじまり、少なくとも静岡県の東部・中部・西部、それぞれ数年をかけて順に全県をカバーしていく必要があります。

 イ 特定テーマ・地域の自然環境調査
 上記の基礎総合調査で抽出された問題や学術的または社会的に緊急な課題に関して、特定テーマや特定地域の詳細調査が必要になります。静岡県は自然が豊かな反面、土砂災害や地震・火山災害の多い県であり、自然災害に関する自然環境調査も特定テーマとして重要です。これらの調査の成果は、学術的または社会的にタイムリーに寄与します。

 ウ 県立自然公園および県立自然施設の自然環境調査
 県内には、各所に県立自然公園があり、それらには休憩施設や自然観察路などの整備がされているところもあります。県立自然公園などは、自然環境の保護や環境教育の拠点となるべきところであり、自然系博物館の自然学習や研究のためのサテライトとしても重要です。特にその自然環境の実態が詳細に把握されれば、自然公園として機能をさらに活用できると考えます。したがって、県立自然公園および県立自然施設とその周辺の自然環境調査は最初に調査研究対象とすべきフィールドと考えます。

 エ 自然研究の促進のための活動
 以下の活動を通じて自然研究の促進を図ります。
  • 静岡県の自然環境の現状、成り立ち、変遷の調査・研究を行う大学や研究者、自然研究会等と共同研究を行ったり、その活動に対して支援することが必要です。
  • 研究体制の機能を高めるため、県内外の博物館、大学、研究機関との連携を図ることが必要ですが、特に県立大学との連携は必要です。
  • 若い研究者や後継者育成に努力し、そのための支援体制を確保することが必要です。
  • 学術研究レベルの向上を図るために、国内外の第一級の研究者によるフォーラムや、自然科学の学会等を誘致することが必要です。
  • 静岡県の自然を基点にしながら、国内外の多様な自然環境についても比較研究のために調査・研究を行うことが必要です。

5 インフォメーション・テクノロジー(IT)やマルチメディア等の利用

 博物館は標本収集や研究・教育活動などの実態がないと存在できないということは十分に認識した上で、インフォメーション・テクノロジー(IT)やマルチメディア等の新技術を博物館に活用する方策について述べます。これからの博物館活動における新技術の活用を考えた場合、次の4つのことが考えられます。
  • 標本・資料のデジタルアーカイブス化(様々な展開の基本となる財産)
  • 新たなネットワーク展開とレファレンス機能(インターネット)
  • 展示における活用(ユニバーサルデザインを含む)
  • 管理・運営業務支援

(1) 標本・資料のデジタルアーカイブス化

 ア デジタルアーカイブスの対象とフォーマット
  • デジタルアーカイブスの対象には、文字、画像、映像、地図情報、衛星画像などが考えられますが、データの長期保存を念頭に置き、デジタルフォーマット設計を慎重にする必要があります。
  • ・衛星データは、地質や植生などの分布データとともに、地図情報と合成して立体的で即時的な自然状態の解析に役立ちます。

 イ 標本データベースとその利用
  • 標本データベースに画像は必須ですが、画像には標本の画像だけでなく、生きているまたは自然にある状態の生態画像が重要で、採集時に撮影する必要があります。
  • 標本データベースは専門性が高く、標本の種類や保存機関によって仕様が異なっているため標準化が難しいのが現状ですが、それでも世界標準を念頭に置いた設計をするべきです。
  • 標本データベースは博物館における様々な展開の基本となる財産ですので、取り出しやすく使いやすい設計が望まれます。教育的活用には、シソーラス(中間的な辞書)の整備も必要です。また、データ入力は、NPO等の協力を意識してマニュアル化する必要もあります。

 ウ 個人標本や研究者のデータベース構築
  • 個人が所有している標本については一般的に非公開であり、データ化されていないので、一元的に公的機関で収集し、データベースを作成する必要があります。
  • ドキュメントとしては、研究資料や研究者の存在そのものも必要であり、そのためには人的ネットワークが重要です。

(2) 新たなネットワーク展開とレファレンス機能(インターネット)

 インターネットの利用に関しては、情報提供、情報収集、コミュニケーションという3つの利用法があります。

 ア 情報提供
  • 標本・資料のデジタルアーカイブスの蓄積があれば、ウェッブ上のいわゆるホームページによるバーチャル博物館は、比較的簡単に始められます。この設置・公開にあたっては、スモールスタートで次第にバージョンアップしていくのが望ましいと考えます。
  • ワンソース・マルチユースの観点で、デジタルアーカイブスをソースとして専門的プログラム、教育プログラム等様々な情報提供が可能になります。
  • 県内の自然研究会の方々がもつ標本など資料はコンテントとして重要で、早急にデジタル化するための支援活動が必要です。
  • 現在、インターネット分野で盛んに技術開発が進められているユビキタスネットワーク(どこでもコンピュータ)に関する技術成果を持ち込むことが有効です。例えば、GPS機能を有する携帯電話もしくはPDA、あるいはインターネットアクセス機能を有するカーナビを用いて、静岡県のどこにいても、いつでもデジタル博物館にアクセスすることができ、その場所に関連する学習や研究に必要な情報にアクセスできるフィールド博物館といったものが実現できる可能性があります。

 イ 情報収集
  • 自然研究(愛好)者や友の会等、または自然関係機関等の参加するメーリングリストを運用することで、県内の自然の状況のデータを収集することができます。
  • NPOなどと協働したり、また各サテライトからの情報収集ができるシステムを検討する必要がありますが、どのようなデータを収集するか、何のために行うかということが問題になります。

 ウ コミュニケーション
  • 各自然研究グループや博物館利用団体・友の会組織等に対して、グループウェアやサイバースペースを提供して、それらを活用して相互コミュニティを構築できる支援活動をする必要もあります。
  • インターネット博覧会で実施された「火山シンポジウム」のような、インターネットを利用した公開シンポジウムを企画し、自然環境に関する最新で詳細な情報を提供することも重要です。

 エ 留意事項
  • ウェッブ上のコンテントは学術的なものも多く、公表内容についての責任の所在が明確でなくてはなりません。また、著作権やプライバシー保護など、運用体制の確立が必要です。
  • ウェッブなどでの情報提供にあたっては、公的なルールやW3Cなど標準化団体で定めるウェッブコンテンツアクセシビリティガイドラインにのっとり、幅広いユーザに活用されるようにすべきです。

 ※ The World Wide Web Consortiumの略。Webの標準化を推進する団体。

(3) 展示における活用(ユニバーサルデザインを含む)

 ア バーチャル展示
  • 実物標本等リアルだけでは表現できないことがたくさんあり、バーチャルリアリティと融合した展示が必要です。
  • テーマと深く関連する博物館としてのいわゆる「目玉展示」を考える必要があります。
  • 映像ソフト製作にあたっては、著作権等の権利関係を博物館側が活用しやすいよう明確に規定する必要があります。
  • ふれられない展示物については、その造型モデル(縮小)等を用意する必要があります。造型モデルについては、3Dスキャナーを利用してデジタルデータをつかった造型製作システムを活用することができます。
  • 音声解説装置や音で展示物の大きさを理解できたり、においや温度などでその場所の雰囲気を感じられるようにするなど、障害者や子供にわかりやすい展示を工夫をする必要があります。
  • 解説パネルは、子供や大人などそれぞれの観客に対応できるように配慮し、できれば解説パネルの多くを情報端末の液晶パネルとすれば、多国語対応や子供用など画像を切り替えることができます。

 イ バーチャル展示の留意点
  • バーチャル展示はあくまでも実物展示の補完的役わりをもつものです。したがって、バーチャル展示でやるべきものは何かということを最初にきちんと検討すべきです。
  • バーチャル展示のコンテントとしては、博物館の所蔵する標本や資料にどのようなものがあるかということが重要です。
  • 最近では映像投影技術もコストもさまざまであり、映像展示のハードウェアの製作にあたっては、観客の収容人数から推定される空間の大きさ(広さ)、すなわちスクリーンの大きさと、没入感があるないなどどのようなことをするか(機能)について明確にする必要があります。
  • 映像ソフト製作にあたっては、著作権等の権利関係を博物館側が活用しやすいよう明確に規定する必要があります。
  • マルチメディア技術を活用した様々な展示では、ハードウェアの維持管理が必要であり、また近年の技術開発の進歩でハードウェアとソウトウェアの陳腐化する期間が短くなっています。このことを念頭におき、これらの機器・ソフト類の開発動向や、リニューアルの時期等も踏まえた設計・運営計画を策定する必要があります。

(4) 業務支援

 博物館は収蔵・研究・教育のシステムだけで動いているわけでないので、事務・広報などの管理系と研究教育系が一体となった業務システムが必要です。それには今後デジタル・アセット・マネージメント(DAM)の考え方を積極的に取り入れるべきです。また、ITやバーチャル等に関連した新技術がいたるところで活用されるため、運営上情報技術に関して専門の職員が必要です。

※ 従来のいわゆる文書データベース/画像データベースなどとは異なり,組織の持つあらゆる種類の情報を統合的に管理/運用して,有機的かつ効率的な組織活動を行おうというもので,ネットワーク/データベースなどの技術利用が前提である。


6 自然学習・研究の拠点施設の運営を支えるサブシステム

 博物館に対する県民ニーズが多様化する中で、博物館活動の効率的で円滑な展開や博物館機能の高度化、博物館活動に対する県民理解・参加の促進等に必要不可欠な「県民との協働」および「関係機関とのネットワーク」をサブシステムとして位置づけ、IT 技術を活用して積極的に導入することが必要です。
 
(1) 県民との協働

 「開かれた博物館」を目指し、博物館活動の各分野において、パートナーとしてのNPO、自然研究(愛好)グループ、ボランティア等の知識・技術を生かし、また交流と協働により活力に満ちた博物館活動を実現することが必要です。そのためにもネットワークの構築や研究支援のための人材やスペースを確保することが望まれます。
 
(2) 学校、博物館、大学、研究機関等とのネットワーク

 「静岡県のどこでも自然学習の場」という自然学習・研究の拠点施設の目標を達成するためには、県内の学校、博物館(動物園・水族館も含む)、大学、自然関係の各研究機関、自然公園や自然体験施設等とのネットワークを形成し、共同研究や情報収集、サテライト展示など専門的・地域的に広がりのある博物館活動を実現することが必要です。そして、博物館活動の場として、実際のフィールドや学校、既存の研究機関、自然体験施設等との連携を視野に入れ、既存施設や地域の自然(フィールド)も活動のエリアにしながら、博物館活動の全県的な展開を目指していくことが望まれます。
 具体的には、県立の自然関係の公園や施設とのネットワーク構築とサテライト展示の検討が必要です。そして、研究活動の推進や科学研究費獲得、後継者育成を行う専門教育を担うために、特に県立大学との研究者人事交流や共同研究・共同事業が必要です。できれば、兵庫県立人と自然の博物館のように、県立大学への併設も検討する必要があります。

(1)  自然環境や自然災害に配慮した設計と運営システム

 自然系博物館のサブテーマのひとつでもある「自然との共生 未来に伝えるメッセージ」に対応した、自然環境や自然災害に配慮した施設の設計や運営システムを考慮する必要があります。すなわち、施設の立地と建物の設計は自然景観や自然環境に十分に配慮し、たとえばソーラー・システムや雨水利用等を設備して環境に配慮する必要があります。
 また、地震や洪水災害等の非難施設としての設備を整えたり、災害時の調査・救援活動等のマニュアルも整備したり、環境問題への取り組みプログラムを推進するなど、運営面でもサブテーマに沿った活動が期待されます。



 ●目次
 ●はじめに
 ●第1章 持続可能な未来を拓く基本的な考え方
 ●第2章 自然学習・研究のあり方
 ●第3章 自然学習・研究の拠点施設のあり方
 ●第4章 自然系博物館の整備について

付録 検討資料等
 資料
  1 自然学習・研究機能検討会の目的と検討経緯

  調査報告書
    自然系博物館に関する県民アンケート調査報告書 (別冊)
    学校教育と博物館に関するアンケート調査報告書 (別冊)


 

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登録日:2003年3月1日