静岡県の淡水生物(2)
イッセンヨウジ

板井 隆彦(静岡淡水魚研究会)

最終更新日:2003年10月28日


 筆者の研究室が静岡市清水興津の興津川の中流部、下流部および河口で定期的にハゼ科魚類を調べ始めてから7年目になります。長らく調査を続けていると、ときに驚くような珍しい魚と出合うことがあります。

 もっとも驚かされたのはハダカイワシで、2000年の夏に河口の調査で見つかりました。この深海性の魚の査定は発光器の数や配置で行うので、筆者の手に負えず、神奈川県立自然史(生命の星・地球)博物館にもちこみ、研究員の瀬能宏さんの手を煩わして、やっとイワハダカとわかりました。サクラエビがいるような深いところにすむこの魚が興津川の河口に現れたのには、どうやら台風で海荒れしたことが関係したようです。それにしても、ほぼ純淡水のところでよく生きた状態で見つかったものです。

イワハダカイワハダカ(中坊, 2000より改写)

  今年(2003年)の7月の下流部の調査で手網の中に1本の10cmばかりの枯れ枝のようなものがはいりました。覗くとゆるゆる動きます。すぐヨウジウオとわかり、魚の形やとれた場所からイッセンヨウジではないかと推測しました。後に研究室で再度同定した結果、やはりイッセンヨウジに間違いはありませんでした。筆者は興津川では断続的ではありますが25年にわたり調査をしてきました。が、この川でヨウジウオ類を見たのは初めてです。

 静岡県の河川域からヨウジウオ類はこれまで4種記録されており、すべて静岡県のレッドリストの要注目種に位置づけられています(静岡県環境森林部自然保護室, 2003)。この4種とは、テングヨウジ属(Microphis) のテングヨウジ(M. brachyurus brachyurus)とイッセンヨウジ(M. leiaspis)、カワヨウジ属(Hippiichthys)のカワヨウジ(H. spicifer)とガンテンイシヨウジ(H. penicillus)です。

 筆者が河川でヨウジウオ類を最初に見たのはイッセンヨウジで、1978年の伊豆半島の岩科川下流の調査で採れました。しかしイッセンヨウジは古宇川など数河川で見つかった後、ほとんど見つからなくなり、入れ替わるように太田川下流域を皮切りに続々と見つかり始めた吻の長いテングヨウジばかりとなっていきました(板井, 1982;金川, 1988など)。カワヨウジやガンテンイシヨウジも見つけられてはいますが、テングヨウジに比べるとかなり頻度は低いものです。

イッセンヨウジイッセンヨウジ(板井原図)

 これら4種のヨウジウオのうち、イッセンヨウジとテングヨウジは両側回遊魚的な生活環をもつようで、瀬能(2001)は回遊魚として位置づけており、筆者も静岡県の淡水魚の生活環区分を行ったときに、やはりこれらを両側回遊魚に含め、カワヨウジおよびガンテンイシヨウジは広塩性周縁魚に含めました(板井, 1995)。しかしほとんどが南方性であるこのヨウジウオ類は、いずれの種も静岡県内では生活環を議論できるほどには多くの個体が得られておらず、そもそも静岡県の河川への定着も不確実なものが多いのです。

 とはいえ、イワハダカのように明らかに偶来的なものとは違い、琉球列島などから黒潮を通じ絶えず供給されており、テングヨウジなどは近年発見される頻度が高まりつつあるところから、ヨウジウオ類のいくつかの種は温暖化の進行とともに定着していくに違いなく、生態もわかってくると思われます。



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登録日:2003年10月28日

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