静岡県自然史ハイキング
遠州里山の自然史を歩こう!実施報告

延原 尊美

最終更新日:2003年10月28日


 8月24日(日)午前10:00、晴天のもと,大人38名,小人23名がJR掛川駅南口に集合、バス2台に乗り込み、袋井市大日〜油山寺にかけての「静岡県自然史ハイキング」に出発しました。今回の野外自然観察会は、NPO法人静岡県自然史博物館ネットワークと静岡県地学会との共催で行い、会員外にも一般参加を募りました。夏休み後半の日曜日ということもあって、15組の家族連れの方々の参加があったのは、次世代への自然観の継承という点でうれしい限りです。

 静岡県自然史ハイキングは、「地質から動植物までいろいろな専門の方のガイドを聞きながら、県各地の自然史をあらゆる角度から深めて歩く」という発想のもとに企画されました。地質も植物も動物も、「自然史」という一つのつながりの中で互いに関係しながら日本列島のなかに息づいています。その地域の自然史をまるごと体感できるような観察会をやってみてはどうか・・・その第1回として、遠州里山の自然を選んでみました。里山は身近に親しめる自然環境として注目を集めています。静岡の里山は果たしてどのような自然史を語ってくれるのでしょうか?

大日層の化石密集層ま観察
 きれいな貝化石をとりだすのはなかなかむずかしい。
田辺積さんの貝化石コレクション展示
たくさんの質問が飛びかう。
シダの分類をおそわる。
手にしている標本は杉野先生が自宅から持参したもの。
油山寺周辺は植物の採集は禁止されています。
樹上にアオダイショウを発見!

 バスはまず袋井市大日の宇刈川源流域に近い丘陵地に到着。筆者の案内のもと水田奥の沢ぞいに露出する掛川層群大日層を観察し、貝化石の採集を行いました。大日層は約200万年前に沿岸の浅い海で堆積した砂やれきからなる地層で、多くの貝化石を産出することで有名な地層です。貝化石の中には現在では熱帯域にしか生息しないものや多くの絶滅種も含まれており、200万年前の地球温暖化の事件に、参加者一同思いをはせました。貝化石を熱心に掘り出すパワーは大人も子どもも変わりなく、なかには見事な完全標本を得られた方もおられたようです。ともあれ、遠州のなだらかな里山・丘陵を構成しているのは、れき・砂・泥の地層であり、かつては海底であったことをまずは実感していただいたようです。

 地層観察後、バスで油山寺に移動。昼食を講堂で頂いたあと、昼休みの1時間ほどを利用して、袋井市の田辺 積さんにその場で掛川層群の貝化石標本のミニ展示を行っていただきました。さきの化石採集で完全な標本を採集するむずかしさを実感したためか、参加者のみなさんは、田辺さんの見事なコレクションに驚きと自然への好奇心の声をあげていました。標本という形で残される自然の大切さ、おもしろさについても再発見があったのではないでしょうか?

 昼食後13:30ごろより、植物観察と野鳥観察の2つのグループに分かれ、油山寺周辺の天狗山にでかけました。植物グループは、杉野孝雄先生、野鳥グループは三宅 隆先生をはじめとする野鳥の会のみなさんのご指導のもと、1時間ほど自然観察を楽しみました。天狗山周辺は、ミミズバイとスダジイを中心とした暖帯の極相林であり、ヘラシダ、ベニシダなどシダ類を多く観察することができました。まるで太古の森の中にタイムスリップしたようです。被子植物の分類で花が重要なように、シダ類の分類では、胞子の付き方が大切な分類の基準になることなど、観察のポイントが示されました。他にもアリドオシ、ルリミノキ、クチナシ、キチジョウソウなど、出会う植物を次々に解説されてゆく杉野先生の言葉に一同熱心に耳を傾けていました。

 一方、野鳥グループに関しては、残念ながらシーズンと時間帯が野鳥を観察するには最悪の時で、目当ての野鳥はほとんど見ることができませんでした。しかし、三宅先生の機転で、さまざまな動物の行動跡を追跡するというちょっとかわった嗜好の観察会を味わうことができました。茶色に枯れた杉の葉っぱに混じって、まだ若い青い葉が大木の下に落ちていますが、これはムササビの食事のあとだそうです。また食痕のある杉の実の標本を持参されていましたが、真ん中をかじったものはアカネズミによるもの、ふたつに割れているものはリスによるものだそうです。なお、木の枝のうえでアオダイショウとトカゲが向かい合っている場面にも遭遇し、野鳥観察用にもってきた双眼鏡が意外な場面で役に立っていました。

 15:00ごろ、油山寺講堂に再び集合し、大日〜油山寺にかけての地層・地質についての説明をして、まとめにかえました。考えてみれば、掛川層群のような比較的若い時代の地層が隆起し、雨・河川の影響で浸食され、多くの谷をもつ丘陵地帯が山地と海岸の間に広く発達することになったことは、いわゆる里山周辺の動植物にとって格好のすみかを提供することになっています。静岡県の地形が、もし山が海にすぐせまるような状態だったら、日本の動物や植物の分布もまったくちがったものになっていたかもしれません。ゆたかな遠州の里山の舞台は、約200万年前の海底からすでに準備がはじめられ、現在の身近な動植物相につながっていることを少しだけでも意識していただけたのではないかと思います。

 今回の企画にあたり、袋井市教育委員会学校教育課のみなさまには、市民への広報やバスの運行などさまざまなサポートをいただきました。油山寺では、講堂の使用や周囲の自然観察について便宜を図っていただきました。また財団法人しずおか産業創造機構には「しずおか少年少女サイエンス・スピリッツ育成活動助成事業」にて援助いただきました。最後になりましたが記して感謝の意を表します。


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登録日:2003年10月28日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History