掛川市上西郷でのクジラ化石発掘調査報告 |
発行:2000/09/01
柴 正博 (東海大学自然史博物館)
1999年10月24日に、掛川市上屋敷西郷の区画整理地道路わきの露頭で東海大学の当時2年生の学生だった新村龍也くんが、化石採集中に骨化石の一部を発見しました。その後、10月29日から11月2日にかけて彼と数人の協力者により、その骨化石の発掘を行ったところ、肋骨体遠位端が少し損失しているものの全長約1.2mにおよぶほぼ完全な鯨目の右肋骨が現れました。 このように保存のよい肋骨化石がこの地層から産したということは、この層準にさらに多数のクジラ化石が埋積されている可能性が高いと考え、東海大学自然史博物館ではこの肋骨化石が産した地層での発掘調査を行うことにしました。そして、2000年7月に掛川市区画整理課および上屋敷西郷土地整理組合の許可を得て、2000年8月24日〜29日と9月2日〜7日にかけて発掘調査を行いました。 クジラ化石が発見されたこの露頭とその周辺には、掛川層群大日累層の大日砂層と天王シルト質砂層が分布します。大日砂層は天王シルト質砂層の下位、すなわちこの露頭の東端に露出し、その上位の露頭全体には天王シルト質砂層が分布します。天王シルト質砂層には、貝化石を多量に含む砂層(貝化石密集層)が4層はさまれ、この肋骨化石は貝化石密集層のうち下位から2番目の第U貝化石密集層とよぶ砂層から産出しました。 2000年8月と9月の2回の発掘調査は、東海大学の研究生・学生、それと発掘経験のある静岡野尻湖友の会のメンバーなどに協力をいただき実施しました。この2回の発掘調査の参加者は総計32名で、1日10〜15名で発掘作業を行いました。 2000年8月の発掘に先立ち、掛川市区画整理課に協力していただき、第U貝化石密集層の発掘がしやすいように発掘地点付近の崖の高さを地上高2.5mにしていただきました。発掘調査1日目と2日目は、肋骨化石が産した地点付近の第U貝化石密集層の上面を露出させるために、人力でその上位の泥層を掘削する作業を行いましたが、暑さと泥層が硬質だったために掘削は難航しました。 そのため、3日目からは、この造成地で整地作業を行っていた後藤興業に協力をいただき、重機(ユンボ)で第U貝化石密集層の上位のかたい泥層を広範囲に掘削しました。その結果、縦横10m四方の広さで、第U貝化石密集層の上面を露出させることができました。第U貝化石密集層の直上には薄い砂層があり、この砂層はデッキブラシと手ぼうきで掃くことにより容易に取り去ることができ、第U貝化石密集層の上面をほとんど破損することなく保存のよい状態で露出させることができました。 第U貝化石密集層の構造は、N30゚〜50゚Wの走向で、南西に10゚〜15゚傾斜していて、発掘地周辺の地層の構造と調和的でした。発掘区画については、地層の分布状況や堆積構造を考慮して、N30゚Wの走向で基線を設け、4m四方のグリットを4つ、すなわち8m四方を対象として、第U貝化石密集層の上面を露出させました。発掘では、さらにそこから地層面を水平に深度20〜30cmになるまで化石密集層を剥いで、骨化石などを探査しました。 発掘した貝化石密集層の層序および産出化石の特徴とその産状から、この貝化石密集層は外浜や内側陸棚から供給された化石が、外側陸棚〜陸棚斜面にあった小さな谷の中に堆積したと考えられます。また、化石発掘調査以前には掛川層群から海生哺乳類の骨化石が発見されたという報告はありませんでしたが、この化石発掘調査により多くの海生哺乳類化石が掛川層群に含まれていることが明らかになりました。 9月7日に現地での発掘調査を終了し、その直後から自然史博物館にて化石のクリーニングと整理を行い、10月1日から開催した自然史博物館での特別展「掛川の化石―クジラ化石発掘調査報告―」(2000年10月1日〜11月30日開催)の展示作業を行いました。なおこれと並行して、化石の記載や標本の同定作業を行い、博物館の研究報告(2001年3月発行)に3篇の論文(調査概要と堆積環境、海生脊椎動物化石、板鰓類化石)を発表しました。 1999年10月〜11月に行った発掘調査には7名が参加し、2000年8月〜9月に行った発掘調査には32名が参加しました。参加者のみなさんに感謝するとともに、発掘調査の期間中の宿舎を提供していただ掛川市円満寺の鬼頭良武住職に感謝いたします。 掛川市での私たちの化石発掘や地質調査の成果をもとに、掛川市教育委員会が主催して「掛川層群の化石」に関するシンポジウムを10月27日に開催してくださることになりました。クジラ化石発掘地については、9月には造成工事が開始されるということで、11月には露頭が完全になくなりますが、教育委員会と造成組合の配慮で露頭から出た土塊は別の場所に保管していただくことになりました。シンポジウムの内容など詳細については、本誌の「団体会員だより」に掲載されていますので、ぜひ参加ください。 |