豊橋市自然史博物館見学の報告

及川 忠広

最終更新日:2007年9月20日



 平成18年10月1日、豊橋市自然史博物館の見学会を行いました。当博物館は、動物園・植物園・遊園地と同じ敷地の中にあり、全体として豊橋総合動植物公園を形成しています。当日は雨足も強い悪天候でしたが、親子連れの来園者の姿も多数見られ、市民公園として有効に活用されていることがうかがえました。

 博物館の外には、実物大の恐竜模型が設置されています。老朽にともなう補修の際には、新規に「復元想像図」を一般から募り、その塗装を行うというイベントも実施されたそうです。市民参加の楽しい催しと思われます。

 豊橋市は、昭和58年にアメリカのデンバー博物館と友好提携を結び、アナトサウルスの骨格化石を購入。恐竜展示を手始めとした豊橋市自然史博物館を昭和63年に開館したとのことです。その後、名古屋大学名誉教授でもいらした糸魚川淳二先生の提言もあり、現在は地球生成から生命史全体の総合的分野、愛知県のみならず、東海地域全体の郷土自然についても資料収集・研究活動を行っているそうです。

 研究テーマの広範囲化、資料の追加収集と、オープンしてからのちのリニューアルが幾たびか行われているため、展示内容とバックヤード施設も追加、追加で増設された経緯があったとのことです。

館内の構成は、以下のようになっていました。
  • 化石を含んだ岩盤が壁を飾るイントロホール。
  • ティラノサウルスとトリケラトプスの骨格が展示されたオリエンテーションホール。
  • アノマロカリスが泳ぐ情景模型もあり、バージェス動物群なども紹介する古生代展示室。
  • アロサウルス、ステゴサウルス、アンモナイトなどが展示された中生代展示室。
  • レプリカではない実物化石標本をである、アナトサウルス展示室。
  • ナウマンゾウなどが登場する新生代展示室。
  • ダーウィンの探検と進化論などを紹介するガラパゴス物語展示室。
  • 豊橋市周辺の環境を情景展示などもまじえて紹介する郷土の自然展示室。
  • 化石のできかたを解説する、化石を知るコーナー。
 デンバー博物館と提携していることもあり、恐竜の骨格標本が多いことには驚かされます。その一方、スポット的に展示ケースを設置し、最新の話題を提供することも忘れていません。動物園の方で、オーストラリア展示が新設されたことをうけて、館内ではカモノハシの骨格標本と、色鮮やかなオーストラリアの甲虫を展示していました。
中庭の植木にもテーマが盛り込まれてありました。中生代の森、ということで、トクサ、ソテツ、メタセコイヤ、イチョウ、シダなどが植えられていました。池谷先生も感心され、「ただ緑化で植木するよりもテーマ性があって面白い」とおっしゃっていました。

 地球生成を物語る岩石の展示には、音声アナウンスの仕組みが設置されています。来館者が標本に触れると、センサーが察知し、音声で解説を行うというシステムのようでした。

 新設されたばかりだという古生代展示室は、なかなかユニークな展示手法が用いられていました。
天井から下がった垂れ幕には年代や生き物の見出しが描かれ、柱にはより正確なタイムスケールが表示されています。

 また、古生代に発生した棘皮動物、貝、魚類などの紹介については、子どもと大人の身長差と視界の高さの違いを利用した年齢別の展示解説が設置してありました。子ども向けの展示としては、復元イラストと模型、四こまマンガによる解説、ハンズ・オンの模式的な解説などがありますが、それらは床面に近い低い位置に設けてあります。一方、大人の身長の視野では、天井に近い位置には解説している生物の分類や進化を示す系統図、その下には化石と一般向け解説とがあります。動物園、遊園地と併設したかたちであり、もともと子どもたちの来館も多いことから、このように子ども向け展示について趣向を凝らしたのではないかとも想像できますが、これからの博物館展示を考えた場合、子どもたちへのアピールは研究課題となるかもしれません。

 ジオラマ……情景展示についても面白いものがありました。中生代展示室では、アンモナイトを狙い、魚竜・首長竜が泳ぐ様を水中での視野で再現しています。新生代展示室では、ナウマンゾウを狙った狩猟の場面が模型で再現されています。

 また、新生代展示室では、ナウマンゾウ、マチカネワニ、三ヶ日人など、静岡ゆかりの標本も見られました。東海の自然として豊橋自然史博物館も注目している資料が、静岡県内からもたくさん発見されていることがうかがえます。

 当日は、豊橋市市制100周年を記念し、「恐竜と生命の大進化−中国雲南5億年の旅−」のタイトルで特別展も開催されていました。さまざまな年代の化石を産出し、生命史資料の発見の多い雲南をテーマに、当地の自然・民俗、発見された数々の化石を紹介していました。

 特にカンブリア紀の化石については、カナダのバージェス動物群と近種のものが発見されていることから、その展示も力が入っていました。多くの化石のみならず、復元模型の多さでも目を引きました。また、全長17メートルにも及ぶ竜脚類のユアンモサウルスの展示は、多くの来館者の注目を集めていました。

 子ども向けのイベント趣向も用意されており、ディロフォサウルスの横顔の小さなレリーフをゴム型と石膏でレプリカ製作するコーナーもありました。

 ご案内いただいた長谷川道明学芸員からは、バックヤードの資料保存室においてもいろいろな解説をいただきました。特に、資料の種類ごとに湿度・温度に気を配らなくてはならない理想と、その理想状態に近づけるべく現状でできうる努力についての話題は興味深いものでした。長期に資料を保存する任務を負う博物館では収蔵庫もありますが、その施設を持ち合わせない準備段階では、資料の受け入れ時、その保存と整理方法において、いかに良好なコンディションを用意できるかも課題ではないか、とも考えました。

 常に成長しつづける博物館としての姿勢、子どもたちを迎えるための趣向を考える姿勢、市民の憩いと娯楽性、参加することの楽しさも考慮した博物館として、豊橋市立自然史博物館の運営はおおいに参考になるものと思いました。

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登録日:2007年9月20日


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