静岡県の三角点(3)
楞厳地山

輿石 邦昭

最終更新日:2007年9月20日





 JR東海道線の菊川・掛川・袋井駅の南方には、遠州灘に向かってドーム状の小高い丘陵が発達している。この地域一帯を小笠丘陵と呼んでいる。現在、小笠丘陵はその東西を南流する菊川と太田川に挟まれているが、かつては古大井川と古天竜川の河原であった。それは、この丘陵が厚い礫層で構成されているからである。これらの礫の組成は、東方では大井川系が、また西方では天竜川系が卓越し、地層中に海生の貝化石が含まれることから、両大河川の河口部で堆積した地層が後に隆起したものとされている。この丘陵は隣接する牧ノ原台地や磐田原台地よりも一時代古く、両台地に較べて開析の度合もより進んでいる。丘陵の主峰は北東部の小笠山(標高264.4m)であるが、一等三角点は南東部の楞厳地山(りょうごんじさん)(標高220.6m)にある。楞厳地山は5万分の1地形図に記名がなく、三角点の本点名も高天神山(標高132m)となっているので解りにくい。

 楞厳地山へは、武田・徳川が三度にわたる攻防戦を繰りひろげた遠州の要塞、高天神城跡から登るのが一般的である。搦手門(北口)から10分ほどで本丸と西ノ丸(高天神社)の分岐点に着く。ここの案内板には「楞厳地は攻城砦で、家康は楞厳地山に上る」と記されている。分岐点を右折すると10分ほどで馬場平に至り、ここからの遠州灘と菊川流域に広がる沖積平野の眺めは素晴らしい。馬場平から山頂までは、両側は急斜面の尾根道であるが、道はしっかりついているので危険はない。10分ほどで“林の谷池600m”の右折指導標を見て、さらに直進すると40分ほどで山頂に着く。山頂および尾根道からの見晴らしはあまりよいとはいえないが、自生するウバメガシの林を散策しながら、道沿いに露出する小笠山礫層を観察するなどの尾根道歩きが楽しめる。

 山頂の一等三角点標石の北2.4mのところに菱形基線測点(八角形のコンクリート製)が、また東1.8mのところに方位標の標石が埋設されている。菱形基線とは、菱形を形成する測点4点間(対角線を含めた6辺)を精密に測定して地表面の水平方向の変動(地震予知などに利用)を調べるためのものである。楞厳地山からの対角側線は西北西約18.4kmにある榛原町坂部の高根山一等三角点を結んだ線で、他は旧菊川町と相良町に側点がある。しかし、現在はGPSの利用などで菱形基線測点による測量は行われていない。方位標とは、ある地点Aにおける子午線方向を表示するために、Aから見通しのよい適当な距離の地点Bに設置した標識(AB方向を基準にして所定の角度の方向に子午線方向(真北)が存在する)である。

 復路は、途中から“林の谷池”経由で農道を歩き、搦手門に戻るのもよい。いずれの行程も約1時間ほどである。高天神社の森は、静岡県「ふるさとの自然100選」にも選定されており、多くの野鳥を観察できる。5月上旬頃には東南アジアから渡ってくるサンコウチョウがみられるかもしれない。時間的余裕があれば小笠山憩いの森を訪れるのもよい。


自然史しずおか第9号の目次

自然史しずおかのindexにもどる

Homeにもどる

登録日:2007年9月20日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History