総会記念講演の報告
林 公義 (横須賀市自然・人文博物館館長)
「博物館、今までの仕事とこれからの仕事
−横須賀自然史博物館の50年を振り返って−」


最終更新日:2007年9月20日



 平成17年4月24日(日)午後1時30分から3時まで静岡市清水テルサ大研修室にて、平成17年度静岡県自然史博物館ネットワーク総会記念講演会が行なわれました。この要旨は林先生の講演を基に事務局で要約したものです。

横須賀市博物館の生い立ち

 1948年に横須賀共同文化研究室が設置され、その後1954年に横須賀市の博物館の原型ができるまでには長い準備期間があった。この間民俗資料や考古資料の収集、文化財の発掘、大楠山や相模湾の自然調査などが行なわれ、業績が溜まってきた所で博物館設立成立構想が出来上がり、1954年に博物館が開館した。現在では本館の他に2つの教育園とヴェルニ−記念館が分館としてオープンしている。

 初代館長である羽根田 弥太先生の発光生物に関する研究業績により、横須賀市の博物館が世界中に知られるようになった。開館当時から欧文での研究報告を出版し、世界各国の博物館や研究者との間で交換をしていた。羽根田先生はその研究を通して世界の博物館をまわり、博物館の在り方をご自分で勉強された。そして博物館を作る際に先生が考えていた博物館の理想を全てその中につぎ込んだ。それが現在の横須賀市自然・人文博物館の基本になっている。この時の基本的な運営方針は現在でも殆ど一緒であり、博物館設立構想時に羽根田先生をはじめ色々な人達が考えた方針の基本的な考え方に先見の明があったということでしょう。

博物館事業目的の世代交代


 1960年代以前の博物館は珍しい物を保存・展示し、観光客から収入を得るという部分が非常に多かった。1960年代以降になると公開指向となり、身近なものを博物館の中に取り入れそれを地域の人達とコミュニケーションをとりながら運営をやっていこうという世代となってきた。1980年代後半になると、ボランティア育成など博物館を運営している人達だけでなく興味のある人達をその中に巻き込んでの運営や、体験型の博物館が非常に増えてきた。博物館として今一番重要な事はこの体験学習機能であり、最近は博物館の中に博物館の一員として体験して溶け込んでみようと言う活動が多くなってきている。横須賀市博物館では博物館教室というものを設けて自然観察会や体験学習ツアーのほか、講座を設けて一定の期間で自分の勉強したい事を学ぶという事をやっている。また中学生の職場体験や5〜6年前からよく行なわれているハンズオンなどを活動のなかに取り入れている。

教育普及活動の変遷

 自然観察会は今ではどこでも聞く事ができるが、もとは博物館活動ではなく自然保護運動の一環として行なわれていたものを博物館的な立場でアレンジして行なったもので、広島県の博物館で最初に行なわれていた。横須賀市博物館では開館当初より取り入れ、1954年から年間5~8回行なっている。当時、「採集と研究の会」というのがあり採集物の品評会などを行なっており、私自身も蟹や貝の殻を集めてそれを夏休みの自由研究の作品として提出して、それからすっかり趣味になり、その時に様々な学芸員さんに色々な事を教わった事がきっかけで現在博物館に勤めるようにまでなった。

 博物館では、学芸員の出張研究も行なっている。普通、なかなか学芸員が博物館の公費を使って外に調査研究を行なって成果を持ち帰るという事は少なく、特に最近のような財政面で厳しい時代でもまだ続けられるというのは大変珍しい。これは昭和42〜43年位から続けられており、これも羽根田先生達が博物館はこういう事を行なっていかなければ学芸員がどんどん上達しないということを、絶えず役所に予算交渉をしてきたという事があってそれを現在我々が受け継ぐ形となっている。

 また今後の流れとして、まず1つは、博物館は情報のデータバンクである必要性がある。博物館にデータベースの元がありそれを学校などの施設でウェブ公開することによって学習してもらうという事や、子供向けのウェブの開設も行い子供にも分かりやすい博物館の情報公開が必要でもある。もう1つは学習パッケージである。学校から授業を要請された時に博物館としては最低限これだけは知ってほしいが授業時間だけでは難しいという事がある。そのような時には出前授業ということで学芸員が学校に出向き話をする。また内容をパッケージしたソフトを先生にやって頂く場合もある。もう1つは学校とのネットワ−クで、平成19年度にオープンする美術館と共に、教育研究所、博物館が今後、各学校の端末で繋がり学芸員から直接授業をうけることができる時代が来ることになる。

博物館の機能と役割

 博物館の仕事の中身というものを4つの大きな柱に例えられる。すなわち@展示、A調査・研究、B収集・分類、C整理・保存の4つの柱があり、その上に1枚のプレートがあり私達はそこで仕事をしていく事になる。展示の部門は非常に大きな意味を持ち、有料である場合は展示の規模と内容によって博物館の管理運営を考えていく上での収入源となるので展示の柱を巨大化させる必要性がある。しかし、博物館というものは展示だけで成り立っているわけではなく、他の3つは一般との接点は殆どないものの、博物館の仕事をパラレルなものとして考えた場合、4つの柱は同じ長さ・太さの柱である事が良い。また、現在ではこの4つの仕事の他に、現在博物館は生涯学習支援、学校教育支援、自然・文化遺産の保護・保全といった様々な協力を要請される。こういったものも博物館的な側面から考えていかなければならない。

博物館の現在の問題点

 建築物の老朽化と展示室の更新が現在一番の問題である。展示室の更新を行なうには建物の躯体そのものをいじる必要があるが、老朽化が進んでいるために躯体がいじれず、展示更新のためには建物自身の改築を行なわなければならない。また耐震工事や将来的な展示方針の方向や飽和状態にある収蔵庫の改築なども考えなければいけない。また収蔵物の防虫・防カビの為の薫蒸用の薬品が規制されたために、新たに安価で安全な薬品を探さなければならない。また収蔵資料のデータベース化についてもセキュリティの問題がある。

 教育園については緑地保全地区境界線の都市化、保護海域周辺の潮流の変化による環境劣化などの問題がある。また本館を中心として分園分館が増えているが予算は博物館1つ分で、本館の予算がどんどん減っている。国の独立行政法人化にともない、委託制度等の導入なども考えていかないといけなくなっている。

今後の博物館のあり方

 現在、各自治体の生涯学習に対する意識のバロメーターは図書館、美術館、博物館の規模と充実度が指標となっており、様々な年齢層の人が学習意欲を十分満足させられる施設である必要がある。もちろんユーザーに対してだけでなく、それぞれの施設がオリジナルな存在感を表に出していなくてはいけない。利用する方には利用しやすく、施設としては目的意識が明瞭で完成の姿を常に求めている事が必要である。

 一番大切な事は出来た博物館をこれからどうするかではなく、これから作る博物館をどういう運用・活用をしていくかということである。「四角い箱が出来てしまったけど丸く使いたい、どうしても四隅が残ってしまう」というような状況では、その施設を100%生かした活用は出来ない。現在、多くの博物館相当施設があり、そういった施設の内容をよく吟味し、必要な情報を集め、より理想に近いものを完成させることが必要である。出来る限り情報を練りに練っていく期間を長く過ごした施設ほど、オープンした時に充実した施設となる。その意味で、より多くの博物館のあり方を見ていくといいと思う。

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登録日:2007年9月20日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
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