静岡県の貝(1)
浜名湖の干潟の貝

加藤 徹 (遠州自然研究会)

最終更新日:2007年9月20日



 数年前、とある沖縄の離島の浜で懐かしさに立ちつくしたことがあります。

 幼い頃、両親に連れられて浜名湖の潮干狩りに行きました。木造の小さな舟で渡った瀬には、無数の小さな貝が散らばっており、独特の匂いが立ちこめていました。今でも、浜名湖に行けばホソウミニナという細長い円錐形の貝が無数に砂の上を這いまわっています。しかし、この独特の匂いはしません。干潟にこのような匂いがあることなど、すっかり忘れていたのに、この離島の浜に立ちこめていた匂いに、昔の浜名湖の面影が脳裏にはっきり浮かんできました。

 一見、浜名湖の干潟の様子は、昔とそれ程違っていません。ホソウミニナ以外にも、カラフルな模様のイボキサゴやアラムシロなどもたくさんいます。もっと泥質な場所に行けば、カワグチツボやウミゴマツボ、カワザンショウガイなどがたくさんいます。

 しかし、少し詳しく調べれば、昔とは明らかに違っていることに容易に気が付きます。昔はたくさんいたハマグリが、今はほとんどいません。他にも、ウミニナやフトヘナタリなども一部で見られるだけとなりました。一方、コウロエンカワヒバリガイなどの帰化種が夥しく生息していたりします。干潟独特の匂いがなくなってしまったのも、このような環境の変化によるものかもしれません。

 とはいうものの、浜名湖はまだ良い環境が残っていることも事実です。前述のイボキサゴやカワグチツボ、ウミゴマツボなどは全国的にはかなり減ってきている種です(WWF Japan Science Report 3,日本における干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状,1996)。その他、ヨコイトカケギリ、シゲヤスイトカケギリ、コヤスツララ、ウミナメクジ、ユウシオガイ、ソトオリガイなどという全国的な減少種(同)もそれ程珍しくはありません。また、ヒナユキスズメ、サザナミガイ、ヌカルミクチキレ、ムラサキガイなどという稀少種も生息しています。

 今年になってようやく、静岡県でも県版のレッドデータブックが出版されました。しかし、これには干潟の貝は含まれていません。干潟の持つ生物多様性維持機能や水質浄化機能などについて解明が図られる一方、全国的に干潟の生物の減少が報告される現状にあります。まだ貴重な自然が残る浜名湖のより詳しい調査と、その保全に向けた干潟生物の県版レッドデータブックの作成が待たれるところです。

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登録日:2007年9月20日


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