パネルディスカッション報告

静岡県の保護すべき動植物
−静岡県版レッドデータブック発行とその活用−


北野 忠


最終更新日:2004年6月25日



2004年4月に刊行された静岡県版レッドデータブック

 平成16年4月25日(日)午前9時半から11時まで、静岡市清水テルサ6階大研修室にて、静岡県自然史博物館ネットワークの総会のパネルディスカッション「静岡県の保護すべき動植物−静岡県版レッドデータブック発行とその活用」が開かれました。

 今回は、コーディネーターとして静岡県自然環境調査委員会委員長の杉山恵一先生、パネラーとして静岡県レッドデータブックを企画された静岡県自然保護室の山口章一氏、静岡県自然環境調査委員である杉野孝雄先生(植物部会長)、三宅 隆先生(哺乳類部会長)、板井隆彦先生(淡水魚類部会長)、高橋真弓先生(昆虫類部会長)においでいただきました。それぞれの立場から、レッドデータブック作成までの苦労話や、分野ごとでの野生生物の現状についてのお話をいただきました。

 この要旨は、コーディネーターおよび各パネラーの方々のお話に基づき、まとめたものです。

 杉山恵一先生からは、全国版レッドデータブックが発行されたものの、各地域によって状況が異なることから、各都道府県など各地域のレッドリスト作成の作業が行われてきたこと、静岡県はその中でも遅い部類であるという紹介をいただきました。また、本調査の結果、メダカのように、かつては普通種であったものが現在希少種となるなど、静岡県の自然も大きく様変わりしてきている現状を踏まえ、標本やデータの管理という点でも博物館の重要性を説かれました。

コーディネーターの杉山恵一委員長 山口氏はじめ各部会長によるコメント

 山口章一氏からは、本事業が平成9年度に予算化し、100名を超える調査員による6年間の調査の後、出版に至った経緯をお話いただきました。また、本県のレッドデータブックの特徴として、「要注目種を入れたこと(本県独自のカテゴリー)」、「カテゴリー区分に応じて保護方針を記載したこと」、「種に対してではなく地域全体を保全する必要性があることから、今守りたい大切な自然を10ヶ所限定で記載したこと」を紹介いただきました。また、本書発行の目的として、大規模な工事に対する構想段階からの検討や、環境教育に役立てたいとのことでした。

 植物部会長である杉野孝雄先生は、県内で確認されている在来種の植物のうち22.4%が絶滅の危機にあること、さらに本調査によってすでに65種が確認できず、絶滅もしくは現状不明の危機にあることをお話されました。また、減少の原因として、園芸採集によるもの、開発によるもの、里山や水田の管理放棄によるもの、高山植物の温暖化?もしくは登山者の増加?によるもの、シカの食害によるもの、水田の農薬使用をあげられました。

 哺乳類部会長である三宅 隆先生は、今回は15種類をレッドリストとし、そのうち6割にあたる9種がコウモリの類であったこと、ヤマネやモモンガを例に、小型動物が人知れず減っていること、ツキノワグマの分布が断続的となり特に富士山地域の個体群が陸の孤島状態となっているなど、県内の哺乳類の生息状況をお話いただきました。また、調査対象である哺乳類を野外で発見すること自体が困難であり、調査が思うように進まなかったという苦労話もされました。このほか、野生生物の分布、および生息状況に関する調査を本書発行により終了するのではなく、今後も調査を継続していく必要性を訴えられました。

 淡水魚類部会長である板井隆彦先生は、県内の汽水・淡水魚の減少の原因について、外来種が在来種の生息に圧力をかけていること、宅地や工場などの環境の悪化、河川のコンクリート化、河川と水路の落差による移動の不可などをあげられました。また、県内の西部、中部、東部、伊豆の4地域は、それぞれ異なる魚類相で構成されていることから、静岡県のカテゴリーに加え、4地域ごとのカテゴリー区分を設けたことを、汽水・淡水魚編の特徴として紹介されました。このほか、魚類の調査にあたっては、網で採集した後に個体を確認しなければ種が分からないこと(観察だけでは不十分で、採集することが重要)、同じ調査場所でも複数回の調査で初めて確認される種もあり、同地点での調査の繰り返しが必要であったという苦労話もされました。

 昆虫類部会長である高橋真弓先生は、まず、昆虫は種類が多く、これまで県内では6463種が確認されているというお話をいただくとともに、分野ごとの専門家が必要であったことを紹介されました。また、里山、海浜、河原、草地に生息する昆虫の減少を紹介されました。さらには、多くの昆虫は単に観察しただけでは種を確認できず、そのため標本が必要であること、標本の保管の必要性とともに、調査者の高齢化が進み、今後標本の散逸の危険も考えられることから、博物館の必要性を説かれました。

 その後はフロアーの参加者からの質疑応答があり、個人ではなく公共機関による標本管理の重要性、今後の調査の継続性、研究者の高齢化にともなう後継者の育成、絶滅に瀕した生物の保護に関することなど、活発なご討議が交わされました。これらの問題点を解消するには、やはり博物館の存在が必要であることを強く感じたディスカッションでした。


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登録日:2004年6月25日


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spmnh.jp
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