静岡県の博物館

東海大学自然史博物館の移設・リニューアル

柴 正博  (東海大学自然史博物館)

発行:2002/03/10



 
恐竜ホールの展示                    発見の部屋では自分で体験
  2000年3月に東海大学は三保学術地域構想を発表しました。その中には、三保文化ランドや博物館を含む社会教育センター内の施設について、2001年度中に文化ランドの閉園と人体科学博物館の閉館、それと2002年度以降に自然史博物館の閉館という計画がありました。

 この方針にしたがって、2000年10月にプールを残して三保文化ランドの閉園と人体科学博物館の閉館が行われましたが、自然史博物館については人体科学博物館の閉館にともない、その建物に展示を移設するという新たな計画が浮上しました。

 2001年度になり、自然史博物館の移設計画が具体的になり、当初2001年8月末閉館し、移設後の11月に開館という予定でしたが、9月に団体来館者が多いことなどから延期され、11月12日に閉館し、2002年1月2日にリニューアル・オープンとなりました。

 東海大学自然史博物館は、1981年10月にその10年前にソビエト大恐竜展を開催した建物や恐竜骨格レプリカを利用して「恐竜館」として開館し、1983年には「地球館」を併設し、1992年にはこれらを統合してリニューアルしました。その間またはその後も、毎年ささやかでしたが研究活動を行い、展示標本を充実させ、特別展示や自然観察会などを行ってきました。ただし、専門学芸員が地質分野しかいなかったために自然史博物館というものの、主に化石を中心とした展示に限られていました。

 自然史博物館の移設・リニューアル計画については、閉館から移設と時間的に急な展開のために、博物館を本来リニューアルするための十分な準備期間やテーマの検討、さらにそれにそった資料収集などはほとんどできませんどした。また、移設先の人体科学博物館の建物は、移設元の自然史博物館の建物よりも狭く、大型展示物のための搬入口さえありませんでした。当初、自然史博物館の移設は「移設」の方にその目的があり、「展示のリニューアル」についてはほとんど気がまわらない状況もあり、予算的にも展示予算がそれほど見積もられていませんでした。

 とはいえ予算請求の時期の2000年10月には移設や展示のマスタープランを作成し、計画の概要と方向性は明らかになりました。しかし、実質的な移設工事の内容や資料収集、展示詳細については漠然としていました。2001年2月に具体的な計画上申案の作成に入りましたが、移設元の自然史博物館にある展示物をどのように配置するか、移設先の展示スペースが狭いため移設できるものが限られ、さらに新たな展示を計画すれば費用も空間も占領されるために、さらにもともとある展示をあきらめざるを得ないという結果になりました。

 新自然史博物館のテーマとしては、当初新たに「生物の絶滅」というものを掲げましたが、このテーマについての資料収集や新展示にかけている時間がなく、このテーマは途中で消滅しました。リニューアルというものの新しいテーマがなく、またテーマが明確でなく、そのためストーリーも移設元とあまり変わらないものになってしまったのではと感じています。

 展示場の構成は、人体科学博物館と同じく入口からエスカレータで3階に行き、2階に下りて1階というもので、エンテランスは25億年前の地球をイメージし、正面にデイノニクスのステージがあり、古い時代から新しい時代の化石を配置しました。また、入口の左にはトリケラトプスの発掘現場を造形で表現しました。これは博物館の外からもガラス越しに見えるものにしました。

 エスカレータをあがった3階の入口は、約3億6000万年のデボン紀末という設定で魚類など脊椎動物の展示と両生類、爬虫類の展示を行っています。ここでは爬虫類について、とくに恐竜以前に繁栄した哺乳類型爬虫類について詳しく展示してあります。

 そこをぬけた3階ホールは「恐竜の世界」になっていて、ディプロドクスやトリケラトプス、タルボサウルスなどの全身骨格がホールいっぱいに展示してあります。ディプロドクスは腹の下から見えるように高いステージにあげて、他の恐竜骨格は身近に見えるように低いステージに配置しました。ステージや壁面は木調で整え、手すりをなくし、床はカーペットを敷いて、各骨格はライティングで浮かびあがらせるようにして、以前の恐竜展示とは雰囲気を変えてあります。

 十分ではありませんが、触れたり、ためしたりして恐竜の特徴を理解できるような工夫もあります。また、タルボサウルスなどいくつかの骨格については、最近の説を取り入れて尾をあげた姿勢に変更しました。解説についても、最新恐竜学の成果を取り入れ、とくに分類や鳥と恐竜との関係なども展示してあります。

 2階にはアンモナイトなど中生代の海の古生物の展示と生きている化石、そして新生代の哺乳類の化石やヒトの進化、氷期の世界などの展示があります。氷期の世界はひとつのコーナーとなっていて、新たにケナガマンモスの全身骨格をジオラマ風のステージの上に展示しています。

 1階はディスカバリールーム(発見の部屋)となっていて、「化石発掘体験」や「わくわくボックス」といって自分でボックスの中のものを出して学習したり、パズルやゲームをしながら学べるスペースを新たにつくりました。

 以前に展示していた貝や静岡県の自然の展示については、展示スペースがないことから新自然史博物館には移設できませんでした。また、レクチャールームは確保しましたが、研究室や収蔵庫、特別展示室はありません。今回の移設・リニューアルは、閉館を選ぶよりも元人体科学博物館の建物で生き延び、さらなる展開をという意味の移設であり、これまで積み上げてきたものすべてを残すことはかないませんでした。これらの部分については、今後の博物館活動の中でなんとかしていきたいと思いますが、現在の建物の中に追加して入れるとなると、スペースの点で不可能です。

 新自然史博物館は、今年1月2日の開館以来、休日には1500名を超す来館者があり、これまでの来館者減少の傾向が海洋科学博物館も巻き込み逆転しています。これを機会に東海大学における博物館の存在意義を再認識していただき、博物館が研究と教育の重要なサイトとして活用されればと思います。


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登録日:2002年3月18日