コラム「しずおかの自然」
清水市波多打川のシロウオ

発行:2001/12/09

北野 忠 (静岡淡水魚研究会)


 清水市を流れる波多打川(はたうちかわ)は流程4.3qの小さな川で、折戸湾に注いでいます。この波多打川には、毎年初春になるとシロウオが産卵のために数多く遡上してきます。川はにわかに活気づき、春の訪れを感じさせます。

 


 シロウオは全長約5pのハゼ科に属する魚です。日本では北海道南部から鹿児島県までの沿岸に生息し、県内では主に駿河湾周辺でみられます。普段は海で生活していますが、繁殖期になると川に遡上し、雄が石の下に巣を作り、その後雌が産卵します。雄は卵を孵化するまで世話をします。

 シロウオの遡上期は、地域によってかなり異なりますが、その地域ごとではほぼ決まっています。私は波多打川で、いつ遡上が始まるのかを1995年から毎年観察してきました。その結果、早い年(1995年)で2月25日、遅い年(1996年)で3月12日というのがありましたが、その他の年(1997〜2001年)では3月1〜9日の間に遡上が始まりました。

 遡上はその後1ヶ月間ほど続き、産卵は4月中にはほぼ終了します。産卵を終えた雌や、孵化が終わり卵を世話する役目を終えた雄はやがて力尽きて死に、6月には川からほとんど姿を消します。しかし、その時期にはすでに多くの子供たちが海での生活をはじめているのです。

 ところで、この波多打川で最近、気になることがいくつかあります。そのひとつは、ここ数年シロウオの繁殖期に、それもちょうど産卵場が数多く形成される場所で河川改修が行われていることです。川底が掘り返されて巣がつぶされるだけではなく、撒き上がったシルトが川底を覆ってしまうと、せっかく営巣していたシロウオが酸欠で死んでしまうのです。もうひとつは、上流域周辺に住宅地が増え、家庭排水により水質が悪化していることです。

 同じ清水市にある庵原川では水質悪化のために近年シロウオはほとんど遡上しなくなってしまいました。波多打川はそうならないためにも、早急な下水道の完備が望まれます。シロウオの寿命は1年といわれています。もし、何らかの理由である年全く産卵できない状況になると、簡単に絶滅してしまう恐れもあるのです。

 あと数ヶ月ほど過ぎ、暖かい春の日差しが感じられるようになるころ、またきっとシロウオは波多打川をにぎやかにさせてくれることでしょう。私は、いつまでもこのかわいい魚が産卵のために波多打川に来てくれるのを願ってやみません。


通信22号の目次へ

 top へもどる

登録日:2001年12月9日