恐竜博物館と白峰村恐竜館を見て

発行:2001/12/09

及川忠弘


 福井県立恐竜博物館は、一般の人々がいわゆる「博物館」としてイメージする典型的なスタイルを踏襲した施設である。豊富な骨格標本と生体復元模型の展示。恐竜のみならず、植物などの古環境も解説。生命史、地球史をも視野に入れた、まさに「自然史」をテーマとした壮大なスケールの博物館である。展示内容も速報性が高く、中国で新発見が相次いでいる「羽毛恐竜」についても既にコーナーが設置されている。また、映画「ジュラシック・パークV」で登場したスピノサウルスにちなみ、歯やアゴの標本を特設で展示する辺りも非常にユニークだ。

 しかも、閉館アナウンスの音楽までもが映画の曲であり、濱田館長からも「パクリでお恥ずかしいのですが」との言葉が出たほどだが、これは楽しい演出といえる。おまけに、映画を撮影した時の基本資料となった模型までもがコレクションしてあるのだから、自然史について興味を持っている人々はもちろん、映画ファンも喜びそうな趣向が凝らされている。スタッフも古生物専門の方々を集められ、海外の博物館とも提携を組むなど、文字通り、日本一の恐竜博物館として、機能すると期待される。

 一方、石川県白峰村の恐竜館は、「恐竜をテーマとした観光施設」の方向で運営されているようだ。この数年の間に、以前からあった施設に追加する形で別棟の新館が建てられている。新館である数棟には、映像を公開するシアターと、当地、桑島の化石と古環境を解説する展示室とが設けられている。

 しかし、白峰の恐竜館は「博物館」として運営されていないためなのか、少しばかり問題点も散見する。それは「速報性」と「考証」、「体験学習」などの点である。

 恐竜は日進月歩、新発見と研究の積み重ねとにより、少しずつその実像に迫ろうとしている。博物館では、その研究成果や新発見について普及をはかる努力が行われている。それは新聞の切り抜きを展示するといった簡単なことから、展示そのものを新しく制作するという規模まで様々である。「速報性」とは、それら恐竜を語るうえでニュース性の高い、新しい情報をいち早く一般の人々へ伝えてゆけるか、といった機能のことである。この機能に欠けると、いつまでも古い情報の展示のままになってしまう恐れも出てくる。恐竜というジャンルは、とにかく情報の移り変わりが早い。数年前の学説や復元がもう時代遅れの思い違いになり果ててしまうことがざらにあるのだ。

 「考証」という点についても似たようなことがいえる。展示内容が新しく、かつ真実に近いものであればいいのだが、悪い意味、「子供だまし」程度でいいと思っていると、これは「考証」を欠いてしまう結果になりかねない。シアターで上映されていた映像は気になる内容であった。竜脚類(アパトサウルス)の子供がティラノサウルスに襲われるも、ヴェロキラプトルらと共に抵抗し、このティラノサウルスを撃退するというのが大筋なのだが、この映像作品はその「考証」に欠けている。

 「アパトサウルスはジュラ紀の恐竜で、ティラノサウルスは白亜紀。この二種類はアメリカで発見されているけれど、ヴェロキラプトルはモンゴルで発見されているから、なんか違うよね。あ、ヴェロキラプトルも白亜紀の恐竜だ……!」

 
 筆者は、神奈川県立自然史博物館で、恐竜をテーマに夏休み企画を行ったことがある。その企画の中で、種類ごとの時代区分や発見地域の地理の話題も取り上げたのだが、子供たちは意外なほど、これらの情報に通じている。もちろん、博物館での講義にやって来るのだから、学年の中でも物知りのタイプの子かもしれないが、小学生でも、それぞれの恐竜の時代区分の区別がつく子はいるのだ。考証の欠けた展示はこれらの子供の失笑を買ってしまうかもしれない。村のあちらこちらで見かける野外展示の復元恐竜も、尾を引きずった古い復元であり、これも一考したいところだろうか。

 「体験学習」という点では、福井恐竜博物館も白峰の恐竜館も化石の体験発掘を行っている。福井の場合は特別催事だが、白峰の場合は常設である。白峰の恐竜館においては、希望者はハンマーを借り、岩くずを割って化石を探すというものだが、どうにも説明不足の感が否めない。私が見た若者のグループは手渡されたハンマーを両手で振り上げ、足元の岩をやみくもに力いっぱい殴りつけているだけであった。これでは貴重な標本が含まれていてもすぐに粉々になってしまう。

 神奈川では、学芸員の指導のもと、ボリビアのノジュールを割って化石を探すという催事が行われた。ノジュールが割れ、化石が出てくると、同定が行われ、のちに記録を取ってまとめるという内容だ。ノジュールからは三葉虫などが現れるのだが、自分の発見が博物館の記録に残るとあって、参加者たちは大喜びだったとのことだ。正直なところ、白峰でも手順と方法とを指導するケアがあった方が、来館者のためにも、新たな標本発見のためにも必要ではないかと考えた。

 白峰村の職員でいらっしゃる山口氏のお話によれば、今までの発見のみならず、桑島にはまだまだ標本が隠れているとのことだ。「体験学習」といった方向を考えた場合、桑島の化石探しはまたとない最高の教材となりうる。手つかずで、未調査の岩くれも宝の山となるのだ。

 福井の恐竜博物館は豊富な資金と、専門の研究員、また大手の博物館施工会社の展示制作もあり、従来からある、「一館集中型」の博物館としてすでに完成された域にある。これから望むのは、いかに市民サービスに努め、地域還元をしてゆくかである。少し気になるのはあまりにも館の内容が完成されているために、これから先、展示替えなどのリニューアルが行えるかどうかである。バックヤードには出番待ちの標本があるだけに今後の展開が楽しみである。

 白峰の恐竜館の場合、桑島の古環境を前面に出した、地域性の高い展示を行う方法も考えられる。特にほ乳類型爬虫類であるトリティロドンが割合新しい時代にまで生き残っていたという事実は、古生物全体を扱ううえでも重要な発見である。もっと地元の「恐竜世界」について言及すべきであり、そうなると、海外産の標本などは二の次にもなってしまうはずである。実際、地元発見の恐竜たちに関しては展示が少ない印象を受けたほどである。石川の恐竜たちの復元を行っても面白いのではないかと考える。

 また、地域性を重んじた展示も突き詰めてゆけば、手取の自然、山村の生活などもテーマとしたエコ・ミュージアム……地域環境を丸ごと野外博物館化する方法論も取り入れられると考える。実際、民俗資料館、ダム記念館などの施設を見ると、その下地は十分に出来ていると考えられる。

 いずれにせよ、子供達にも人気の高いテーマを展示している二つの館である。日本にも恐竜がいた、という事実をアピールし、生命史の啓蒙に務めていただくことを切望してやまない。
 

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登録日:2001年12月9日