第14回見学会の報告
静岡空港建設現場周辺の見学・観察会に参加して

発行:2000/03/15

高橋真弓 (静岡昆虫同好会)・伊藤通玄 (静岡県地学会)


静岡空港完成模型 21世紀まであと5日という12月26日(火)の午後、自然博推進協主催の第14回見学・観察会が寒風吹きすさぶ静岡空港建設現場周辺(島田市湯日〜榛原町坂部〜赤坂)で行われました。今回は空港本体部の起工から満2年を経て、本体部用地取得率約95%、土工量約400万立方メートル(約15%)に到達した建設現場周辺を見学・観察し、周辺環境の現況や自然史博物館(地域活動・交流センター)適地の有無などを検討するために計画されました。

 午後1時、静岡空港島田連絡所(島田市湯日)に集合した参加者20名は、静岡空港の建設状況や環境対策を収録した関連ビデオを視聴ののち、河江富男主幹、志村弘一主任から空港建設工事の概要と防災・環境保全対策について資料説明を受けました。連絡所内には静岡空港周辺の地形模型があり、また環境復元用のドジョウ・ホトケドジョウ・カワニナなどが水槽のなかで飼育されていました。

 事前説明を受けた参加者一行は、河江・志村両氏の案内で最近移設されたばかりの展望台に登り、空港建設現場のほぼ全景と周辺の自然を展望しました。ここでは、柴 正博会員から配布資料「静岡空港建設現場周辺の地形・地質」に関する概要紹介がありました。空港建設現場は島田市と榛原町の境界にある物見塚(標高210m)をほぼ西端とし、東南東に傾き下がる丘陵です。この丘陵の基部には新第三紀中新世後期(およそ1千万〜5百万年前)に堆積した相良層群に属する切山泥岩層(西側)および高尾礫岩層(東側)が分布しており、標高140〜150m以上(予定地西端)〜80m以上(予定地東端)の稜線部には牧之原(権現原)礫層より古い高根山礫層(数十万年前の旧大井川系礫層)が分布しています(地質図参照)。

静岡空港周辺の地質略図
静岡空港周辺の地質略図(柴 正博会員原図に加筆)

 現在切土中の高尾山西側斜面には茶褐色に風化した切山泥岩層が遠望されましたが、既に切土済みの大規模のり面には、層理の明らかな灰黒色泥岩(不透水性軟岩)が露出していました。これを不整合に覆う黄褐色の大井川系礫層(高根山礫層)は透水性のため、豪雨時には両者の境界や切山泥岩層中の小断層ぞいに浸透水が噴き出す危険性があり、盛土に当たってはこうした浸透水対策が防災上重要だと感じました。切土部の直接観察ができなかったことは残念でしたが、別の機会に観察できることを期待しています。

 展望台からの見学後、スダジイを主とする照葉樹林に囲まれた曹洞宗の名刹「石雲院」(1455年開山)に向かい、杉野孝雄会員からこの樹林を代表する植物について詳しい解説がありました。

空港建設現場  石雲院の照葉樹林
造成工事のつづく空港建設現場             石雲院の照葉樹林

 この樹林は常緑の広葉樹を主とする典型的な照葉樹林で、スダジイの大木の下には特徴的な細長い種子が散見されました。スダジイのほか、タブノキやクスノキの大木も見られ、林内にはカクレミノ、サカキ、ヒサカキ、タイミンタチバナのような常緑の亜高木や小低木も多く、ハイノキ科のミミズバイが多いことはこの樹林の特徴であるとのことでした。また、トキワガキという黒っぽい独特の樹皮を持ち、カキの葉に似た5cmほどの葉身を持つ樹木もありました。

 石雲院の樹林はこの地域ではもっとも自然林に近いものであり、ここに住む動物の種類も変化に富んでいるものと推定され、静岡県内でも第1級の社寺林として保存する価値の高いものと感じました。

 つぎに物見塚西方約1km(新幹線切山トンネル北)に当たる赤坂池を訪れました。ここでは移植されたタコノアシやフジタイゲキが見られましたが、移植された湿地の面積が狭く、これらの貴重な植物が永続的に生育していくためにはかなり手厚い環境整備が必要と思われます。また、ホトケドジョウなどを移住させる場合にも、十分な空間(面積)を確保し、細心の注意を払って水質や周囲の植生を管理する必要があるでしょう。

 以上の見学・観察を終えた一行は島田連絡所に戻り、すぐ東に設置された温室で育成中の幼木や草本(いずれも郷土種)の鉢植えを見学しました。ここにはアラカシ、アカガシ、ミミズバイ、トキワガキ、クサギ、ネムノキ、カラスザンショウなどの鉢植えが並び、1999年12月現在の記録によると根株を移植したもの56種、山取り移植したもの73種でした。

 自然環境の正確な調査と環境の保全・復元は、静岡空港の成否にかかわらず欠かすことのできないものです。静岡県の環境行政も高度経済成長時代に比べればかなり前進したと感じますが、静岡空港の建設については(賛否の立場は別として)拙速に事を運ぶことなく、住民投票なども含めて、「県民全体がもっと論議すべきではないか」という感想を抱いて午後4時ごろ帰途につきました。

 最後になりましたが、事前説明から現地の見学までご案内を頂いた河江・志村の両氏、現地説明をお願いした柴・杉野の両会員に厚く御礼申しあげます。


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登録日:2001年6月05日