特集「榛原の自然」 静岡空港とその周辺の地形と地質 |
発行:2000/03/15
柴 正博 (東海大学自然史博物館)
静岡空港予定地は、島田市と榛原郡榛原町の境界にある高尾山と物見塚(標高210m)をその西端とする東北東-西南西方向の幅の狭い尾根にあたります。この山地は、法々寺の北西方向の谷で、西側の高根山-物見塚を中心とする北西-南東方向の山地と、東側の吉田町につづく海抜約170mから東に傾斜する東南東-西北西の山地に分けられます。 これらの山地の地質は、新第三系上部中新統の相良層群を基盤として、その上位に更新統の高根山礫層(坂部原礫層)が重なります(地質図参照)。 高根山礫層は、山地の頂上部をつくり、この地域の南側にある高根山に分布することからその名前がつけられた礫層です。この礫層の堆積した地質時代は、小笠礫層より新しく、牧之原礫層よりも古いと考えられます。この礫層のつくる東に傾斜した地形面は大陸斜面へと連続するという特徴があります。高尾山周辺では海抜140〜150mから上位に礫層が分布し、東側の山地では海抜140mから東側に徐々に傾斜し空港予定地の東端では海抜80mから上位に分布します。 静岡空港周辺の地質図 (柴 原図) 高根山付近はちょうど相良層群のつくる北北西-南南東方向に軸をもつ向斜構造の軸部にあたり、向斜軸の東側では地層は北西〜西北西方向の走向で南西側に10〜30度傾斜し、西側は北東方向の走向で南東側に10〜20度傾斜している。軸部には短周期の褶曲や断裂なども見られます。 切山泥岩層については、これを相良層群の地層とする考え方と掛川層群とする考え方があります。この問題は、相良層群とその上位の掛川層群の境界をどこに引くかということと、両層群の関係をどのように考えるかということになり、研究者によって異なった見解が示されています。 私たちの調査した結果では、高尾礫岩層と切山泥岩層は相良層群に含まれると考えています。また、浮遊性有孔虫化石の研究から、この地域に分布する相良層群上部には最上部中新統が欠如し、その上位の掛川層群は鮮新世にあたることから、相良層群から掛川層群への移り変わりは、連続して堆積が行われたのではなく、なんらかの時間間隙があったものと思われます。 静岡空港の建設には、山を削り、その土砂を谷に埋めて狭い尾根を広くして平坦な面をつくります。地質の問題点としては、谷埋めした埋め土の流出防止があげられます。切山泥岩層の分布地域には地すべり地が多く、そのままでも地すべりを起こす土質で、岩石を砕いて軟質にして埋め土に使った場合、その流動性は予想以上に大きいかも知れません。その点、建設には十分に考慮されていると思いますが、自然が残された限られた里山をわざわざ崩して飛行場をつくるしかない現実に、いろいろな面で寂しさを感じます。 |