静岡県の三角点(9)最終回 南アルプス深南部の一等三角点 輿石 邦昭 |
南アルプスは山梨県・長野県・静岡県にまたがる国立公園で、その北部は北岳(3192m、日本第2位)を主峰とする鋸岳(2685m)までを、また南部は赤石岳(3120m、第7位)を主峰とする光岳(2591m)までをいう。南アルプス深南部とは、光岳の南に広がる寸又川両岸の原生林に覆われた山塊を指し、一等三角点はここに聳える黒法師岳(2067m)と大無間山(2329m)にある。 黒法師岳へのルートは車で旧水窪町のロックフィル式水窪ダム堰堤を渡って9km先の戸中川林道ゲートから歩行約6kmで登山口に至る。太いコメツガが生える尾根を歩くこと約3時間で主稜線の分岐点に着く。途中、岩陰に咲くイワカガミ、コバイケイソウやシロヤシオの群落を見ることができる。分岐点では正面に前黒法師岳(1943m)、左方に盆を伏せたような丸盆岳(2096m)、右方に黒法師岳が眺められ、笹原の中を約30分で黒法師岳の山頂に着く。 ここの三角点標石(図2)は通常の十印に対して×印が刻まれているので、変種の一等三角点として知られている。頂上からの眺望は樹木に遮られてよくない。酸性雨や温暖化の影響なのか深山も大きく変貌しつつあり、9年前より立ち枯木が目立って多くなった。帰路は水窪ダムに寄るのもよい。ダムの案内板には“基礎地質 砂岩、チャート”とあり、堰堤の中央部を光明断層(西側はチャートなどの秩父帯、東側は砂泥岩互層の四万十帯)が南北に走っているようで、断層線はどの当たりを通っているのだろうか? 大無間山へは登山口である井川湖、田代の諏訪神社の鳥居から一泊二日のコースとなる。林が続く尾根を標高差1100m、約3時間半登ると“P4”と称す五葉沢三等三角点(1796m)に着く。近くに静岡市営小無間小屋(無人)がある(ここには水場はない)。P4と小無間山の間には、四万十層(中生代後期)が侵食されて形成された鋸歯と言われるP3、P2、P1のピークが見られる。鋸歯を通って300m急登すれば小無間山(2150m)の山頂に出る。P4からは3時間半の行程である。大無間山山頂へはここから倒木の多いシラビソとダケカンバの原生林の中を西南西に進み2時間半はかかる。山頂からの眺望は樹木に囲まれてよくないが、夜空を見上げれば、天の川をはじめこんなにも多かったかと思われる星の輝きを楽しめる。翌朝、山頂から5分ほど下った展望地からの南アルプス南部や深南部の眺めが素晴らしい。 日本の一等三角点の最高地は赤石岳(長野県)であるが、県では大無間山である。 静岡県下の一等三角点を9回にわたって紹介してきたが、これをもって完結する。最後に、静岡県内と周辺の一等三角点(▲:本点、△:補点(静岡県外は略))および武遠三角網(最初に測量された本点の骨組み)の一部を図に示す。三方原基線(都田村と神ヶ谷の間)からどのようにして増辺していったかを読み取ることができる。 |
自然史しずおか第15号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年9月20日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |