静岡県の水生生物(5) シロウオ 秋山 信彦 |
シロウオは全長5〜6cmの小型のハゼ科魚類で、北海道の函館から九州まで分布しています。シロウオはよくシラウオやシラスと混同されますが、シラウオは寿司ねた、シラスはチリメンジャコ、踊り食いをするのがシロウオと言うとわかると思います。ちょっと残酷ですが、日本各地で早春の風物詩として生きたまま食べてしまう踊り食いが有名です。では、なぜ早春なのでしょうか。 シロウオは通常沿岸域で群れを作って生活しています。春になると河川を溯上し、下流域の石の下で産卵します。海域ではめったに目に触れることはありませんので漁獲されることはありません。しかし、早春に群れで河川を溯上してくると人の目に触れることから漁獲されるようになり、踊り食いで食べるようになったようです。色はすこし飴色をした透明で、鱗がありません。ですから色がついた鱗のある魚とは違って生きたままでも食べやすいのです。 さて、このようなシロウオですが、大変面白い繁殖生態の持ち主です。雄は溯上するとすぐに拳大の石の脇を掘り始め、石の下面に産卵室を作ります。部屋が完成すると巣の入り口で尾か頭のどちらか一方を出して左右に振って雌を呼び寄せます。産卵前の雌は雄の誘いに乗って巣に入ります。一つがいになると雄は入口を砂で塞ぎ、他の雌が入れないようにします。多くのハゼ科魚類では雌が雄の巣に入るとすぐに産卵するのですが、シロウオは他の種類と異なり、すぐには産卵しません。雌は狭い巣に入ると雄と接触します。その接触刺激が加わると雌の卵の成熟が急速に始まります。水温14℃で約3週間すると卵は十分成熟し授精可能となります。 従って、その間つがいは餌を食べずに巣の中で暮らします。雌の卵成熟が起こっているのと同時に雄は真っ暗な巣の中で生活することによって精子が形成されます。雄も雌も産卵の準備が整うと巣の中で並んで仰向けとなり、巣の天井に卵を付着させます(写真左)。産卵が終わると雌は巣から出てゆき、やがて死んでしまいますが、雄はそのまま残り、孵化するまで卵が酸欠になったり、カビが生えたりしないように保護します。その間約20日です。従って、雄は通算40日以上もの間餌を食べずに次世代につなぐ努力をします。孵化は夜の8時ぐらいがピークで、孵化が近くなると雄は巣の出口を作り、卵をゆすり孵化を促します(写真右)。そのようにして孵化した仔魚は翌年まで沿岸域で動物プランクトンを捕食して成長します。 静岡県内では昔は清水の巴川の河口で早春にシロウオ漁の四つ手網が並ぶほどの漁業があったそうです。また、早春にはこのシロウオを食べるために関東圏から大勢の人が来たそうです。今でも静岡県中部を中心としていくつかの川に遡上していますが、産卵するための河川環境の悪化と、沿岸の浅所が急速に失われたために各地で激減しています。 |
自然史しずおか第12号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年9月20日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |