カラーコラム 12 |
静岡県の植物(4) スルガジョウロウホトトギス 杉野 孝雄 スルガは静岡県内で2ヵ所、山梨県で1ヶ所見つけ、幾度も現地調査をしています。しかし、スルガを知るには、母種であるサガミを調べる必要があります。サガミは神奈川県固有の植物で、産地も限られていることから、現地での調査が永年の懸案になっていました。幸い2005年9月、丹沢山で花の咲いている群生地に出会ことが出来ました。同じような生育環境で見つかりましたが、なんとなく生育状況の雰囲気に違いを感じました。 サガミはスルガに比べて、全体が大きく、花の数が多いことが目立ちました。両者の区別点は文献や図鑑で違っています。葯の色、葉裏脈上の毛に違いがあるとしている文献や図鑑もありますが、これは区別点にはなりませんでした。詳細に調べると、花の数はスルガは1〜4個で平均1.4個、サガミは1〜5個で平均2.4個でした。「神奈川県植物誌」(1988)には、スルガは花柱の下部まで腺毛があるが、サガミは下半分は無毛とあります。確かにサガミは若干腺毛はありますがほぼ無毛です。 両者の違いで興味深かったのは生育状況です。写真に見られるように、スルガは横一列に並んで茎が出て花が咲いています。サガミはややまとまって叢生状に茎が出ています。生育基盤である岩盤を調べると、スルガの岩盤は変成を受けていて、平行に割れて段になって並んでいます。その隙間に根茎を伸ばし、先端に花を順次着けています。そこで写真のように並んで花が咲きます。サガミの岩盤は割れにくいので、根茎を伸ばさず、岩の間のくぼ地にかたまって生えています。スルガは根茎を伸ばすことで、生育環境の岩盤に適応して生育しているのです。両者の生育地での雰囲気の違いはここにありました。 静岡県の野鳥(3) ライチョウ 朝倉俊治 ライチョウは全長が約40cm弱でコジュケイを少し大きくしたずんぐり体形をしています。夏は左右の翼と腹部を除けばほとんど黒褐色(雄)で、冬は尾羽の一部以外は白色となります。みなさんになじみが深いのはこの真っ白なライチョウでしょう。雌も冬は雄と見分けが着かない白色ですが、夏にはまだらな黄褐色をしています。このむっくりした体つきのライチョウはあまり飛びません。5月から6月の繁殖期前期や、ねぐら入りする夕方の薄暗い時間以外では飛ばず、歩きながら採餌しているか、まわりの風景にとけ込んでじっと休息しているかのどちらかです。登山者がよく見るライチョウは7月から8月に小さな雛連れの雌との出会いでしょう。食べ物はほとんどが高山植物という美食家です。 夏はハイマツのある高山帯で繁殖し、冬は少しだけ下の樹林帯を主な生活場所にするといわれ、一年を通じて高山帯で生活しています。ライチョウ以外で夏に高山で繁殖する野鳥には、イワヒバリ、カヤクグリなどがいますが、冬は全くみられなくなります。ライチョウは高山帯唯一の留鳥かもしれません。 信州大学の中村浩志教授によれば、ライチョウは日本全国に3000羽しか生息していないそうです。静岡県が含まれる南アルプスではおよそ700羽と見られています。そのようなことから、絶滅のおそれがある種に選定され、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧U類、静岡県のレッドデータブックでも同じく絶滅危惧U類となっています。また、昭和30年には国の特別記念物にも指定されています。最近の遺伝子などの研究からは、北アルプスと南アルプスのライチョウは数万年交流がないこともわかってきました。 野鳥の会の増田章二さんと私は、数年前から南アルプス最南部のイザルガ岳(2540m)に住むライチョウを調査しています。その結果、この付近に住むライチョウは2ペア(つがい)ほどであること、夏も冬も生活している場所はほとんど変わらないことなどがわかってきました。 このイザルガ岳のライチョウは、日本に生息するライチョウの分布の南限であり、北半球のツンドラや高山に広く分布するライチョウ Lagopus mutus の世界における南限の生息地でもあります。地球温暖化が進めば、生息環境が悪化し、日本のライチョウは絶滅の可能性が現在よりも高くなると考えられていますが、イザルガ岳のライチョウは真っ先にいなくなるかもしれません。昨年の10月には主に南アルプスに生息するライチョウを研究する「静岡ライチョウ研究会」が発足し、まだまだわからないことが多いライチョウについて調べが進められようとしています。 |
自然史しずおか第12号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年1月3日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |