静岡県の化石(1) 地殻変動のあかし オオシラスナガイ 延原尊美 (静岡県地学会) |
ヒマラヤ山脈のような高いところから、アンモナイトのような海の生物の化石が出てくるのはなぜでしょう? いまでは、それが造山運動によって、かつての海底が隆起した結果であることがわかっています。そしてその造山運動は、プレート運動によって南半球から移動してきたインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突する過程で引き起こされたことも・・・。 こんな物語を、静岡県でも身近に実感することができます。しかも静岡県の場合、出てくる化石はかつての深い海に生きていた貝の仲間です。県西部掛川地域の丘陵を作っているのは、土方層と呼ばれる今から約200万年前に堆積した泥の地層ですが、この地層からはオオシラスナガイという二枚貝の化石がたくさん産出します。オオシラスナガイは現在でも生きている種類で、西南日本の沖合、水深150〜800 mの砂泥質の海底に分布しています。私は野外調査のときによく地元の方にオオシラスナガイの化石が出てくることをお話しするのですが、十人中九人は「へぇ〜っ、ここはむかし海だったかねぇ・・・どうして?」と、その不思議さを再確認してもらっています。 実はオオシラスナガイは、掛川地域の土方層だけではなく、西南日本〜琉球弧にかけての同じ時代の地層にも産出します(高知県の室戸半島、宮崎県の宮崎平野、沖縄本島など)。約200万年前に西南日本のいろいろな場所の深海で堆積したそれらの泥の地層が、そろって陸上でみられるのです。その当時、地球が温暖化して南極の氷が溶け出し、海水準が一斉に上がって陸域まで水浸しになったのでしょうか? 確かにこの時代、世界的に温暖化したことが、さまざまな化石の証拠から言われていますが、現在の陸上がこれだけ深い海になるためにはそれだけでは説明できないように思えます。つまり、約200万年前から現在にいたるまでの間に土地が隆起する必要があるというわけです。オオシラスナガイが産出するこれらの地層はいずれも、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込むことによってできた前弧海盆という堆積盆地に堆積したものです。これらのプレートの運動は私たちにとって心配のたねである地震を引き起こす原因になっていますが、オオシラスナガイの化石は約200万年前から現在にいたる間におきたプレート運動の変化が関係しているのかも知れません。 静岡県では、オオシラスナガイは石垣いちごで有名な久能山の根古谷層からも産出します。根古谷層は、今からおよそ20万年前の地層であることが明らかにされています。200万年前の地層の場合、オオシラスナガイの化石は西南日本の各地に認められていますが、根古谷層のように新しい時代の深海の堆積物が山の上まで隆起しているという事例は、他の県にはなく静岡県の特徴といってよいでしょう(あまりありがたくないかも知れませんが・・・)。どうしてこんなに早い速度で、久能山は高くなり続けているのでしょうか? 静岡の自然はまだまだ多くの謎を語りかけてきます。 このような沖合の堆積物とそこに生きていた化石を身近にみることができるのは、地殻変動にさらされてきた日本(とくに静岡県)ならではの「過去からのメッセージ」なのかも知れません。 |
自然史しずおか第9号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年9月20日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |