静岡県の昆虫(4) ギフチョウ |
ギフチョウは3月下旬から4月中旬に見られる小型のアゲハチョウです。春だけその美しい姿を見せるところから「春の女神」などと言われ、広くその名が知られています。 幼虫は落葉樹林の下に生えるカンアオイという植物だけを食べ、6月には落ち葉の下などでさなぎとなり翌春羽化します。幼虫の食草であるカンアオイも、成虫の蜜源となる花の多くも、林の中が春先だけ明るいという落葉広葉樹林の環境に適応した「スプリング・エフェメラル」であり、ギフチョウもまたそれに合わせた生活環を持っているわけです。 静岡県のギフチョウの分布は、富士川周辺の「東方分布地域」と天竜川西側周辺の「西方分布地域」とに分かれ、伊豆半島や静岡県中部には分布していません。これは、幼虫の食草であるカンアオイ類の中にも適不適があって、東方分布地域にはランヨウアオイ、西方分布地域にはヒメカンアオイという良好な食草となる種類が分布しているからです。伊豆半島・箱根山にはランヨウアオイはあってもその量が少なかったり火山活動の影響などで、静岡県中部では多く分布するのが食草として不適なスズカカンアオイであることなどが、ギフチョウの分布しない理由と考えられています。 分布域は限られるものの、以前はその分布域の中では決して珍しい蝶ではありませんでした。富士川下流の明星山のギフチョウは当時の登山ガイドブックにも紹介されていましたし、国鉄身延線の沼久保駅も手軽にギフチョウを見ることのできる所として知られていました。トンボの生息地として有名になった磐田市の桶ヶ谷沼の隣の鶴ヶ池にもイワタカンアオイを食草とするギフチョウが数多く生息していたそうです。 近年ギフチョウは太平洋側の地域で急激に減ってしまいました。先に書いたようにギフチョウは落葉広葉樹林のチョウです。太平洋側のギフチョウの分布する暖温帯地域はやがては常緑性の照葉樹林となってしまう所なのですが、これまでは人々が薪や炭の生産のため、積極的に落葉樹林を残してきました。薪や炭が不要になってスギ・ヒノキが植林され、それが手入れされないために林内は暗くなって、カンアオイが育ちギフチョウが飛ぶ環境ではなくなってしまったのです。 現在ギフチョウの生息している芝川町、天竜市、引佐町では天然記念物に指定されています。天竜市・引佐町境の「枯山」は生息環境がよく保全されていて、初心者でもギフチョウの飛ぶ姿を観察できます。 |
自然史しずおか第4号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2004年5月4日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |