静岡県の昆虫(3) 冬の風物詩―フユシャク― 枝 恵太郎(静岡昆虫同好会) |
皆さんは昆虫採集といったら、夏の風物詩の一つとしてとらえている方が多いのではないでしょうか。ところが昆虫の中でも冬期にのみ成虫が出現する種もあります。今回はそんな一風変わった「フユシャク」という蛾(ガ)類について紹介します。 「フユシャク」は冬に出現するシャクガ類(皆さんご存じのシャクトリムシのことです)の総称的な名称で、英語ではwinter geometrid mothsと呼ばれます。フユシャクの特徴として、1)冬期に生殖行動を行い産卵すること、2)メスは翅が欠けるか縮小して飛翔できないこと、3)口吻は欠けるか、短縮して食餌しない場合が多いことなどがあげられます。 現在、日本のフユシャクは35種が知られており、静岡県では23種を確認しています。なかでも1992年に新種記載されたシュゼンジフユシャクは、田方郡修善寺町で発見された個体をもとに命名された種で、今のところ修善寺町以外に確認されていません。 では、なぜフユシャクは冬に出現するのでしょうか? 口や翅が退化することが密接な関係にあるに違いありません。過去の研究成果によると、冬期に餌をとることによる弊害として、水分が体内に入りそれがもとで凍ってしまう可能性が指摘されています。メスは翅を退化させることで、より産卵することに集中したと考えられますが、飛べないということは分布を広げる力が乏しいということです。海外の例では、孵化した幼虫は周囲に餌がないとわかると、口から糸をはいて風の力を利用し飛翔移動することが知られています。 フユシャクのオスは光に集まる傾向が弱く、飛翔できないメスも採集しようとなれば、自ら林の中を歩くことになります(写真)。日没直後からオスの飛翔は見られますが、翅のないメスの姿を見つけることは非常に困難です。時間が経つにつれオスの飛翔は落ち着き始め、樹幹や枝先に目を凝らすと交尾しているペアを見ることができます。通常交尾後はメスがオスを引っ張って移動しますが、まるまると太ったメスがかよわいオスをものともせず歩いている姿は人間社会でもよく見る光景です。 ある時、林の中のぽっかりとあいた空間で、オスの大乱舞に出会ったことがあります。まるで夜桜が風に吹かれて散り始めているという感じで、ランタンの光も相まってそれは幻想的な光景であり、大変感動しました。 |
自然史しずおか第3号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2004年1月2日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |