博物館を見よう! 蒲郡市生命の海科学館の見学報告 及川 忠弘 |
11月16日(日)、うららかな小春日和のなか、愛知県蒲郡市にある「蒲郡情報ネットワークセンター生命の海科学館」の見学会が行われた。 当施設は、JR蒲郡駅からも至近であり、道路を挟んだ反対側には大型ショッピングセンターも建っているなど、きわめて市民の生活圏にとけ込んだ立地条件を持っている。 鉱物・化石などの自然史資料を扱う科学館が、情報ネットワークセンターと同居する形になっており、1階は地域情報プラザとして市民が自由にインターネット情報を取り出せるパソコンが設置され、資料の展示室は3階のフロアとなっていた。 玄関を入ってすぐの場所にはアミツォーク片麻岩が置かれ、800万年前のヒゲクジラの化石の展示が来館者を迎える。化石の後ろには200インチ・スクリーンが設置されており、コンピュータ・グラフィックによるクジラの復元映像が映されている。 珪化木がフロアに展示されている中央ホールは吹き抜けになっており、まるで宙を泳ぐかのように天井から下がっているプレシオサウルスのキャストを眺めながら螺旋階段を上って展示室へと向かう。
展示室では、地球史・生命史をおさらいするという大きなテーマの中でも、とりわけ「海」に重きを置き、地球と海の誕生、生命の発生と種の多様化を紹介する方向で、海外産の資料の収集と展示が行われている。 1 原始地球の時代 46億年前、地球が誕生して海ができるまで。 鉄を多く含むナンタン隕石、テクタイト、シャタコーン、礫岩、片麻岩などを展示。地球の誕生と海の発生を紹介する映像コーナー、大陸の移動などを映像で紹介するコーナーも設置。 2 海の誕生・生命・酸素の発生 35億年前、その海に生命が生まれてから、たくさんの細胞が役割分担を始めるまで。 ノースポールチャート、縞状鉄鉱層、ストロマトライト、グリパニアなどを展示。シアノバクテリアについても解説する映像コーナーも。 3 生命の大爆発 5億4千万年前ころ、突然多くの動物が爆発的に進化。 エディアカラ、チェンジァン、バージェスなど、カンブリア紀の動物化石を展示。また、バージェス動物群についてはコンピュータ・グラフィックによる復元動画を映写するコーナーも設置。 4 魚たちの進化 人間のような背骨をもった動物の祖先である「魚」の進化。 「化石でみる魚の進化」として、化石の展示も交えて魚類の系統を紹介するコーナー。実際に化石に触れられる展示も。 5 海のハ虫類、イクチオサウルス 恐竜の時代と同じころ、海を支配していたハ虫類の進化。 魚竜であるイクチオサウルスの化石を展示すると共に、生存時における遊泳状態、捕食活動を再現した映像コーナーも設置。また、イクチオサウルスの前肢の化石のみを設置し、実際に触れられるコーナーも。 そして、鳥羽水族館提供による「現在の海の生きもの」というビデオ映像によるライブラリ、370万年前の人類の足跡のキャスト、という展示で締めくくられる。 地球史・生命史という大変大きなテーマを、当施設は限られた空間と資料とで駆け足で紹介しているが、(古生代から中生代への時間順列の紹介はされているが、新生代については特にないようだ)首長竜、魚竜、バージェス動物群など、子供たちに人気の標本を押さえているところは喜ばしい限りだ。 バージェス動物群は、その発見と誤った復元、そして修正されて明らかとなった奇想天外な姿形から最近特に注目を浴びている。ばらばらに発見され、それぞれが別の生物と見られていたものの、新たな研究からひとつひとつが同じ生き物の器官であると確認され、ようやく形となったアノマロカリスなどは、今や子供たちも知る古代モンスターである。同時期に生きていたヨホイア、マーレラ、ハルキゲニア、ピカイア、ウィワクシアなどの化石も見ることができたが、NHKでの復元映像も手伝って、私自身は彼らの実像を少し大きくイメージしすぎていたようだった。実際の彼らは、硬貨の上に数匹が乗れるほど小さいものが多く、そんな彼らの化石をじっくり観察できるよう、科学館は虫眼鏡の貸し出しも行っている。 虫眼鏡の観察もさることながら、当施設は実際に手で触れて確かめるハンズ・オンの手法を随所に取り入れている。隕石や岩石、化石の一部は実際に手で触れてその感触を確かめることができる。ナンタン隕石には磁石が取り付けられており、鉄分が含まれていることを誰もが確認できる。 展示解説については、かなり新鋭的な技術を導入している。先にも映像コーナーが複数設置してあることを記したが、隕石、岩石、化石の各展示にはかつての展示解説バネルの代わりにVisual Information Terminalと名付けられた情報表示端末が設置されている。これはモニタとトラックボール、実行ボタンとでインターネット画面に似た表示を操作して解説を呼び出す仕組みだ。表示される情報は別室のサーバーで管理しているとのことだ。なんとなく、かつて静岡県が計画していたバーチャル型博物館を想起させられる。この情報端末は館内に20台近く設置されており、解説を記した金属プレートをファイリングした形の解説パネルスタンドを上回る数である。 映像装置、情報端末など、さぞかしメンテナンスが大変だろうと想像されるが、案内してくださった山中敦子学芸員のお話によれば、表示ソフトの開発にも携わった会社によるメンテナンスが実施されているとのことだ。 科学館は今後、資料の追加収集を行う予定はないとのことだが、市民への普及活動はプログラムされている。山中学芸員による小学校への出前講座、また土曜の19時半開講の市民講座などのイベントも実施されているそうである。 県立規模で大きな予算を使った運営ではないが、国内ではまだ珍しいバージェス動物群の資料を持っていることもあり、楽しい普及活動を期待したいところだ。 |
自然史しずおか第3号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2004年1月2日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |