自然学習・研究機能検討会の報告に関連して
静岡県立自然史博物館の博物館としてのイメージ

柴 正博

最終更新日:2003年7月5日


 2001年度から2002年度に開催された県企画部での自然学習・研究機能検討会では、2002年10月に報告書がまとめられました。その報告書の「第3章 自然学習・研究の拠点施設のあり方」の3では、自然学習・研究の拠点施設、すなわち自然史博物館のテーマと内容が示されています。今後私たちが、静岡県の自然史博物館のイメージをより具体的に構築していくために、ここではこの内容についてご紹介したいと思います。
 

ふじのくに〜その大いなる自然〜
静岡県の自然の豊かさを未来に伝えたい


 自然学習・研究の拠点施設のテーマとして、上のタイトルが挙げられています。その内容として、このテーマタイトルをより具体的に表現するために、以下のような3つの項目(軸)にそって立体的に静岡県の自然学習・研究のテーマとメッセージが構成されています。






水の旅
(プロローグ)
水の循環からみた静岡県の自然

 静岡県の豊かで多様な自然の現状を実感するために、「水の循環」という視点から静岡県の自然をめぐる旅にでかけてみよう。静岡県には天竜川、大井川、安倍川、富士川、狩野川など日本を代表する河川があり、富士山には永久凍土や湧水、伊豆には温泉、西部地域にはため池や浜名湖、そして南側には駿河湾や遠州灘が広がり、深海には海洋深層水もあります。

 静岡をめぐる水循環の代表的ないくつかのコースを、「水」になって源流から中流、下流、河口域、海岸から沖合域と旅をすることによって、静岡県の現在の自然の多様さや豊かさについて体系的に認識することができ、さまざまな展開や驚きが期待されます。

 静岡県には高山帯から里山、河川、汽水域、陸棚浅海域、深海域までの各種の自然環境が一セットそろっていて、しかもそれらは人間活動の影響圏にあります。静岡県は自然界をめぐる物質循環を考える上で世界の中でもモデルとなる地域の一つといえるでしょう。河川の水は陸から海に向かう物質循環を担っていて、静岡県の海洋生態系にも大きく影響を及ぼしています。静岡県の自然が多様であること、そしてそれらの多様な自然は個々が独立しているのではなく互いにつながりをもっていることを訴えたいと思います。

多様な自然のドラマ
(メインテーマ)

 現在の静岡県の自然がいかに豊かで多様なものかを実感したら、今度は時間の旅にでかけて、静岡県の自然の生い立ちをたどってみましょう。静岡県の地形・地質の成り立ちや、そこに生きる動植物の種類や生態は、中緯度帯における地球と生命の相互作用の織りなすシンフォニーともいえます。

 静岡県はユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートの境界付近に位置しているといわれ、世界的に見ても特異で活発な地殻変動帯にあるといえます。地殻運動は、東日本と西日本とを隔てる糸魚川―静岡構造線やフォッサマグナなど本州弧の重要な地形・地質構造を形成し、高山から深海までのさまざまな自然環境をかたちづくってきました。

 静岡県にはそのような多様な自然環境にさまざまに適応・進化した多彩な動植物が生息しています。重要なことは、県中央部から東部にかけての地域が、東日本と西日本を隔てるフォッサマグナにあたり、その地域が数百万年前まで海だったことから、動植物の分布と多様性において他県では見られない特徴をもっていることです。

 静岡県は日本列島の地質構造だけでなく、生物地理区の成立過程を考える上でも東日本と西日本のフロンティアにあたっています。静岡県の自然環境と多様な生物相がどのように形成されてきたのかというドラマは、日本列島の自然史を解明していく上でも重要であり、静岡県は地球と生物の歴史を、一体感をもって語る上でまたとない地域といえます。

 静岡県には、富士山をはじめ、伊豆半島、南アルプス、浜名湖、駿河湾など自然資源または個別テーマとしても魅力的なものがあります。これらの個々のテーマに関して、地質・動植物の生い立ちや現在の生態系についての理解を深めること、そしてさらにそれら個々の自然環境の間にどのようなつながりや背景があるのかを探り、静岡県の自然の豊かさや多様性についてのダイナミクスを、一体感をもって理解を深めることがメインテーマです。

自然との共生
(エピローグ)
未来に伝えるメッセージ

 静岡県の自然の生い立ちや歴史をふまえた上で、未来へと意識を広げてみましょう。静岡県では古くからその自然を生かした人と自然の共生が行われてきました。しかし、ここ数10年間の社会や経済活動の急激な変化によって、里山などに代表される人と共生していた自然の荒廃や自然破壊が広がっています。「静岡県は自然の豊かな県である」といわれてきましたが、その自然環境に関する体系的な研究は現在ほとんどなく、その標本や資料も蓄積されていません。静岡県の現在までの自然環境の実態をきちんと把握して、そしてその「豊かさ」を次代の県民に引き継ぐための活動を、県民とともに行っていかなくてはなりません。
 また、持続可能な未来のためにどのような自然観を私たちがもつのかという課題に対しては、環境破壊や環境汚染の問題だけでなく、自然災害の観点からも自然を見直す必要があります。静岡県は火山噴火・地震・津波・海岸浸食・台風などあらゆる自然災害があり、その点で世界的に見ても特異な地域です。防災やサバイバルという側面から自然災害をとらえるだけでなく、自然の成り立ちという観点からも理解を深めてゆくことで、自然と人間との共生のあり方について、静岡県ならではメッセージを世界に向けて発信できると思います。



 なお、検討会報告書では、第3章の6で、自然学習・研究の拠点施設の運営を支えるサブシステムととして、 (1)県民との協働、 (2)学校、博物館、大学、研究機関等とのネットワーク、(3)自然環境や自然災害に配慮した設計と運営システムがあげられています。

 今年度は、標本資料の保管・整理事業が県の企画部ではじめられますが、これに協力していくと同時に、目指すべき静岡県の自然史博物館の具体的なイメージを私たちなりに作成することをさらに進めていきたいと思っています。

 なお、自然学習・研究機能検討会の概要については、http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-21/index.htmに掲載されています。報告書については、http://www.spmnh.jp/hpnature/intro/02kento01.htmに掲載されていますので、ご覧ください。Webページがご覧いただけない方で、報告書を希望される方はNPO事務局へご連絡ください。は、後からできる博物館として、これらのことを踏まえて、特色のある静岡方式の博物館を是非作っていただきたい。


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登録日:2003年7月5日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History