自然観察会報告 有度山北麓・中日本平の自然観察会報告 2002年6月15日(土) |
湯浅 保雄(静岡植物研究会)
発行:2002/09/10
里山と田園のひろがる吉田川流域 緑に覆われた県立美術館の裏の斜面 博物館の建設する際、一番やっかいな問題は場所の選定と確保であろう。市町村の誘致合戦もあろうし、アクセスの便利さや拡張性等も考えなくてはならない。 自然博推進協では常々自然誌博物館の適地は無いものかと話題にしてきた。今回はたまたま、伊藤通玄先生が静岡市の有度山麓の県立美術館に近いところに、利活用法が未確定の県有地が有るという情報を入手してきたので、そこを自然観察会を兼ねて視察することとした。 10時に県立美術館の駐車場に集合した。参加者は9名。まず、有度山麓の県有地の配置について三宅副代表から用意した図面に基づき説明を受けた。県有地は大きく二つのブロックに分かれていた。平沢観音の手前で吉田川の右岸に位置する有度山北麓地区と、それより上流部で日本平パークウェイ沿いの中日本平地区である。今回は有度山北麓地区の一部を視察することとした。 有度山北麓地区は県立美術館の裏に隣接しているので、まず、美術館の裏手から眺めた。全体としては吉田川から分かれる沢が何本も入っている起伏に富んだ地形の所である。博物館を建設するとしたら、斜面を有効に利用するとしても可成りの土木工事が必要であると推察された。 美術館裏から、県立大学のテニスコート、薬草園の横を通り、今見た沢に降り、更に吉田川に沿いの道で柴先生より有度山の地質について説明を受けながら別の沢に入った。そこは県が各種の団体に里山の管理を体験させている場所であった。ヒノキ林や竹林に囲まれて放棄された谷田があり、典型的な里山である。しかし、谷が狭く、谷頭も急斜面となっているので、ここでも博物館を建設するには大きな土木工事を必要とするであろうと思われた。この沢を見た後、集合場所の県立美術館駐車場に戻り観察会を終了した。 今回視察した所は、博物館建設地は土木工事で何とか確保できるとしても、アクセス道路が問題となる場所であった。県有地へは平沢観音へ通じる狭い道しか無く、しかもその道の入り口は、住宅地の中を通 っているので拡幅は容易でない。そこで、博物館建設地としては残念ながら問題の多いと場所と言わざるを得ないと感じた。 なお、自然観察の方は、地質以外には昆虫も少なく、咲く花も殆どなく、あまりぱっとしなかった。 草薙泥層のカキの化石層の採集 吉田川流域での自然観察 有度山北麓・中日本平自然観察会で見られた野鳥(三宅 隆) ヒヨドリ、シジュウカラ、メジロ、カワラヒワ、キジバト、ヤマガラ、キセキレイ、セグロセキレイ、ウグイス、エナガ、ムクドリ、アオサギ、トビ、ツバメ、コシアカツバメ、ハシブトガラスの16種類。6月1日の下見の時には、県鳥のサンコウチョウがよく見られましたが、この日は残念ながら出現しませんでした。サンコウチョウのくる場所は里山的な自然が残っている証拠です。 有度山北麓・中日本平自然観察会で見られた地層(柴 正博) 県立美術館から吉田川流域にかけての地域には、有度丘陵を構成する久能山層と草薙層、小鹿層が分布します。久能山層は主に礫層からなり、その上位に不整合で重なる草薙層は泥層や砂層からなります。草薙層は入江のような浅い内湾に堆積した地層で、内湾での海進を特徴づける地層(泥層→砂泥互層→粗粒砂層)の重なりの繰り返しから4回の海進(4回目にあたるW層の堆積時が最大でそされ以前のものは4回目に付随するものと思われます)が認められ、その後の海退によって砂層からなる草薙層最上部(X層)と毛帰巣からなる小鹿層が形成されたと考えられます。 草薙層の層相とその分布から、草薙層の堆積した内湾は池田と馬走にある高まりによって、西から小鹿の東、平沢から草薙、馬走から有東坂の西という3つの地域に分かれていたと考えられます。 県立美術館から吉田川流域にかけての地域では、草薙層の各層(T層〜X層)が露頭で見られ、また各層には貝化石層や生痕化石などが多く見られ、草薙層が見学できる模式的地域でもあります。 |