自然史博物館関連資料 「対話と連携」の博物館 ― 理解への対話・行動への連携 ― (市民とともに創る新時代博物館) その2 |
発行:2001/12/09
この資料は、本会の第6回総会記念講演「自然史博物館の役割と在り方」のなかで中川志郎茨城県自然博物館長(日本博物館協会副会長)が紹介され、「自然博推進協通信」第20号に掲載した「記念講演要旨」の注で、「自然博推進協通信」誌上で順次紹介することを予告した「望ましい博物館のあり方」調査研究委員会報告書<要旨>(日本博物館協会:2001年3月発行)からの抜粋です。 2.対話と連携の「ヴィジョン」 「対話と連携」は、新時代の博物館に至る「パスポート」である。博物館内部の「対話と連携」は、個々の博物館の「博物館力」を高め、博物館相互の「対話と連携」は博物館全体としての「博物館力」を飛躍的に増大する。 博物館外部(家庭・学校・地域・関係諸機関)との「対話と連携」は、博物館力の増強にとどまらず家庭、学校、地域の「教育力」を強力にパワーアップする。 (1) 博物館力を高めるための「対話と連携」 ここで重要なことは、生涯学習社会の新しい教育システムの中では、博物館が従来の学校中心の教育活動と比較にならないほどの重要な役割を分担し、それを果すことこそ博物館の社会的存在理由なのだという共通認識を、すべてのスタッフが持つことである。このコンセンサスがない限り、多くの博物館に従来から見られてきた館内部のセクショナリズムを排除することはきわめて難しく、博物館に課せられた新しい役割を実行することは困難であろう。 館内部での「対話」には、この共通認識を得るための徹底的なスタッフ討論が必要である。これには館職員はもちろん、解説員、ボランティア、友の会、ミュージアムショップの職員にも加わってほしい。これらの博物館関係者も重要な人的博物館資源にほかならず、博物館の第一線で利用者とじかに接する重要な立場にいるからである。 このディスカッションによって相互理解に達することができれば、館の掲げる「使命」がスタッフに浸透し、各持ち場をつなぐ有機的な「連携」(活動ネットワーク)が活き活きと機能し、「博物館力」の増大につながるはずである。各人が現代の博物館が何をなすべきか、自分は何をなすべきかを認識し、常にこれでよいかを問う姿勢ができるからである。 (2) 教育力を高めるための「対話と連携」 生涯学習社会における教育は、家庭・学校・地域をとおしての生涯にわたる教育・学習であるが、その効果を充分に発揮させるためには三者間の緊密な連携がとれていなければならない。第15期中央教育審議会答申「21世紀を展望したわが国の教育について」では、第2部第4章を“学校・家庭・地域社会の連携”に割き、その重要性に触れて学校が家庭や地域社会との連携・協力に積極的であって欲しいと求めている。また、平成10年の生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」でも、 第3節に“生涯学習社会におけるネットワーク型行政の推進”を掲げ、学校との連携、民間の諸活動との連携、首長部局との連携、生涯学習施設間の連携、市町村の広域的連携を具体的に論述している。 このことからも類推できるように、生涯学習時代の教育は単独の分野では成立することができず、教育力はそれらの統合によって初めて成果を期待しうるものである。博物館には、学校、家庭にない膨大な資料と情報の蓄積があり、さらにそれを専門に扱う専門職もおり、連携による共同作業は、地域、学校の、「教育力」をパワーアップする大きな戦力となるであろう。博物館もまた、館内・館外の連携活動を通して博物館が生涯学習社会に不可欠な教育・学習機関としての存在意義をアピールし、地域文化の拠点としての位置づけを明かにすることができよう。中教審答申では連携・協力を推進するために、地域教育連絡協議会や地域教育活性化センターの設置を提言しているが、博物館もまた地域の社会教育施設として積極的に参加していくべきであろう。 (3) 対話と連携の「原則」 二十一世紀への“望ましい博物館”へのパスポートとなる「対話と連携」は、博物館および博物館群においては「博物館力」をパワーアップし、家庭・学校・地域との共同作業では地域の教育力を飛躍的に高めることができよう。それは市民と共に創造する博物館の新しい価値である。「対話と連携」は下記の活動原則にしたがって展開される。 対 話 1. 博物館は博物館活動の全行程を通じて対話する。 −収集保管・調査研究から新展示・慰楽まで− 2.博物館は利用者、潜在利用者の全ての人々と対話する。 −面談からインターネットの双方向交流まで− 3.博物館は年齢、性別、学歴、国籍の違いと、障害の有無を超えて対話する。 −施設・情報をすべての人に利用可能にする− 4.博物館は時間と空間を超えて対話する。 −博物館のIT革命を推進する− 連 携 1. 博物館は規模別、館種別、設置者別、地域の相違を超えて連携する。 −相互理解が連携の道を拓く− 2. 博物館は学校、大学、研究所等と連携する。 −博物館活動の科学的基盤を整備する− 3. 博物館は家庭、行政、民間団体、企業等、地域社会と連携する。 −市民参画が新しい地域文化を創造する− 4. 博物館はアジア、太平洋地域及び世界の博物館・博物館関係諸機関と連携する。 −地域連携から国際連携 |