掛川市の植物

発行:2000/09/01

杉野 孝雄(掛川草の友会)


 龍尾神社での見学会掛川市は緑に囲まれた市で、緑被率は全市の77%に達している。その内、森林は53.7%で、残りは草地、農耕地、公園緑地である。しかし、森林の内訳は人工林73.8%、二次林26.2%で、自然林は全体の0.01%にも満たない。

 人工林のほとんどは、山地に広がるスギ・ヒノキの植林地である。二次林の多くは里山で、薪炭林として利用されてきた後、放置されたコナラ、アカシデを主とする林で、イヌシデ、アベマキ、ヤマザクラ、アカメガシワなどが混生する。

 自然林は、丘陵地では照葉樹のスダジイ、ツブラジイの林で、山地ではアカガシ、アラカシ、ウラジロガシなどのカシ林になる。八高山、大尾山、栗ヶ岳、小笠山などの山地や社寺林の、事任八幡宮、龍尾神社、永江院などに残されている。

特異な林として、小笠山の小笠礫層上にウバメガシ林がある。ウバメガシ林は一般に海岸に発達する林で、海岸から離れた小笠山に分布しているのは珍しい。昔、海進で小笠山の麓近くまで海であった時代に侵入し、その後、海水面が下降した後も、海岸に似た環境である岩上に生き残ったと推定される。

低地はチャ・ミカンが栽培されて、溜池が多い。古くからある池にはジュンサイ・オニバスなど珍しい水生植物もあったが、改修などが原因でほとんどが絶滅してしまった。

八高山 (海抜832m)
掛川市と金谷町の境にある山地で、山頂付近では暖温帯から冷温帯への移行がみられる。山頂近くにある白光神社の境内は、スギの大径木が茂り、セッコク、カヤラン、キヨスミコケシノブが着生している。
主な樹種として針葉樹のモミ、ツガや照葉樹のアカガシ、ウラジロガシ、アセビ、ヒイラギなどがある。夏緑樹はカナクギノキの大木があり、ヒメシャラ、リョウブ、イヌシデ、ヤマザクラ、アベマキ、クマノミズキ、イロハカエデ、イタヤカエデなどが茂る。低木はチチブドウダンが多く、キヨスミミツバツツジ、カマツカ、コアジサイなどがある。アカガシとモミは林を形成している。

林床にはミヤマシキミがあり、エンシュウハグマが群生している。

大尾山 (海抜671m)
 山頂にある奥の院にスギの大径木が茂る。その中の「鳥居スギ」は静岡県天然記念物に指定されている。スギにはセッコク、キヨスミコケシノブが着生している。アカガシ、アブラチャンの林があったが伐採された。山頂近くにある顕光院には、樹齢150年と伝えられるカイドウの大木があり、4月下旬に紅紫色の美しい花をつける。掛川市保存樹木に指定されている。

 エンシュウハグマは多く、カギガタアオイ、クサアジサイ、カキノハグサ、タカサゴソウ、オクノモミジハグマ、ジンバイソウなどがある。

栗ヶ岳 (海抜527m)
 山頂に、掛川市の天然記念物に指定された「阿波々神社の社叢」がある。アカガシとツブラジイの大径木の茂る林で、林内にアオキが多い。照葉樹のヤブニッケイ、イヌグス、モチノキや夏緑樹のイヌザクラ、ヤマボウシなどがある。

 登山道に沿ってネザサの草地があり、春はタチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、フモトスミレなどのスミレ類が多い。その他、ハルリンドウ、ナツトウダイ、ヤマルリソウなどある。秋はツクシハギ、オミナエシ、ワレモコウ、リンドウ、ツリガネニンジン、イズコゴメグサ、アキワギクなどの草原の代表的な花がみられる。

小笠山 (海抜264m)
 掛川市と菊川町、大東町、袋井市の境にある山地である。アカマツの林が広がっていたが、マツノザイセンチュウの被害でほとんどが枯死し、ウバメガシの林が急速に広がってきている。山頂に山地性のアカガシ林と海岸性のウバメガシ林が並存しているのが特徴的である。
 照葉樹はアカガシ、ウバメガシ以外では、ツブラジイ、アラカシ、タイミンタチバナ、ヤブニッケイ、ソヨゴ、ヤマモモ、タブノキ、サカキ、カゴノキなどがある。夏緑樹は、ヤマザクラ、ウワミズザクラ、コナラ、リョウブ、クリ、ハリギリ、タカノツメ。低木はモチツツジ、ヤマツツジ、ミツバツツジ、コバノミツバツツジ、キヨスミミツバツツジ、ヒカゲツツジなどのツツジ類の種類が多い。その他、カマツカ、キブシ、ツクバネ、マルバウツギ、ウツギ、ガマズミ、コバノガマズミなどがある。
 掛川側に深い谷間があり、暖温帯系のシダ植物の種類が豊富である。暖温帯南部から亜熱帯に分布の中心がある、北限種のスジヒトツバやリュウビンタイ(絶滅)、エダウチホングウシダ、タカサゴシダ、ナチクジャクなどの南方系の種類もある。

事任八幡宮 (日坂)
 静岡県の「お宮の森・お寺の森100選」に選ばれた林がある。ツブラジイを主とする照葉樹林で、針葉樹のカヤノキ、照葉樹のツブラジイ、タブノキ、サカキ、モチノキ、ユズリハ、ヤブニッケイの大木やクスノキ、イチイガシ、カゴノキ、ウラジロガシなどが茂る。夏緑樹はケヤキ、ムクロジの大木がある。

 由緒のある古い神社で、掛川市指定天然物の「事任八幡宮の大スギ」、「事任八幡宮のクスノキ」、掛川市指定保存樹木「イチョウ」がある。

龍尾神社 (城北)
 静岡県の「お宮の森・お寺の森100選」に選ばれた林がある。ツブラジイを主とする照葉樹林で、ツブラジイ、ヤマモモ、アラカシ、クスノキ、モチノキ、サカキ、タブノキや夏緑樹のヤマザクラ、カラスザンショウ、ハリギリ、クリ、アカシデ、タカノツメ、ウワミズザクラ、コナラなどが茂る。

 掛川市指定保存樹木「モミ」やイチイガシの大木がある。神社の裏手にヒノキの立派な林があり、林内にナナミノキが多い。

永江院 (西郷)
 掛川市保存樹林に指定された林がある。照葉樹のツブラジイとスダジイの林で、クロガネモチ、アラカシ、ヤマモモ、ヤブニッケイ、ヤブツバキ、サカキ、モチノキ、タブノキなどが茂る。


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登録日:2001年09月01日