野外観察・採集会の報告
掛川市上西郷化石産地周辺の野外観察・採集会

発行:2001/09/01

伊藤通玄 (静岡県地学会)


クジラ発掘地での化石採集 掛川市北部丘陵に分布する掛川層群は貝化石を主とする海生動物化石を多産することで古くから知られており、鮮新世(約500万〜170万年前)の暖流系貝化石群(掛川動物群)の代表的産地としても有名です。

 これらの化石産地のうち、JR掛川駅北方に当たる掛川市上西郷(掛川バイパス南側、倉真川右岸)の宅地造成地の露頭には、掛川層群の大日砂層および天王シルト質砂層(約200万年前)が露出しており、天王シルト質砂層には4層の貝化石を多量に含む砂層がレンズ状に挟まれています。1999年10月、この貝化石を含む第2砂層からクジラの肋骨化石が発見され、2000年8月および9月にこれを発掘した結果、多量の貝化石とともに海牛などの肋骨化石やホホジロザメなどの歯の化石も発見されました。

<> この宅地造成工事が今年の9月以降に再開され、この貴重な露頭が失われることが確実となったため、本会では6月23日(土)10〜15時に亘り、この露頭および周辺地質の観察、化石産出状況の観察および化石採集のほか、周辺の植物観察を行ないました。

 午前10時、掛川駅北口に集合した参加者18名はマイカーに分乗してクジラ肋骨化石の発見で話題となった掛川市上西郷の宅地造成地に向かいました。ここでは、クジラ化石の発掘調査をリードされた柴 正博会員(東海大学自然史博物館)にお願いして、「掛川地域:失われた地質露頭の記録(抜粋)」(延原尊美・柴 正博:2001年)に基づく説明を受けたのち、まず露頭周辺の大日砂層・天王シルト質砂層の分布状況を観察しました。

 露頭周辺の地質を観察した参加者は早めの昼食を終え、休憩もそこそこに化石採集に取り組みました。各自採集しやすいポイントを選び、ハンマーとタガネを駆使して、スウチキサゴ・ツメタガイ・キリガイダマシなどの巻貝、ベンケイガイ・ベニグリ・オオスダレガイなどの二枚貝の化石を採集しました。これらの貝化石の種類や産状などから、クジラ化石を含む貝化石層は、外浜や内側陸棚から供給され、外側陸棚〜大陸斜面にあった小さな谷のなかに堆積したものと推定されます。

 梅雨空ながら雨に遭うこともなく掛川層群の露頭観察・化石採集を終えたのち、近くの龍尾神社の社内林に立ち寄り、杉野孝雄会員(掛川草の友会会長)にお願いして「掛川市の植物分布の特徴」について資料説明を受け、この社内林を特徴づけるモミの大木、スギ・ヒノキ・ナギなどの針葉樹、ツブラジイ・イチイガシ・ヤマモモ・クスノキ・スダジイ・タブノキ・サカキ・モチノキなどの照葉樹、アカシデ・クリ・ヤマザクラ・カラスザンショウ・ハリギリなどの夏緑樹を観察しました。

 最後に新装なった掛川市立中央図書館に立ち寄り、特別展示中の上西郷産「クジラの肋骨化石」を見学して15時ころ解散しました。末筆ですが、適切な参考資料を準備され、熱心にご案内いただいた柴・杉野両会員に厚く御礼申しあげます。


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登録日:2001年9月01日