コラム「しずおかの自然」 オオタカの夫婦 |
発行:2000/03/15
新井 真
D: ♀(成鳥) E: ♂(幼鳥) 「Flight Identification of European Raptors」より オオタカは雌が大きく、雄が小さいノミの夫婦です。猛禽類は一般的に雌が少し大きいのですが、猛禽類のなかでもオオタカは極端な方です。 オオタカの餌はほとんどが鳥で、スズメ位の小鳥〜コサギ、キジ、カルガモなど自分と同じ位の鳥まで獲ります。身体が大きければ大きな獲物を獲ることができ、また、小さい方が小回りが利き小鳥などの小さな獲物を獲ることができます。 これは限られたエリア内で多様な餌を得る為の適応と考えられています。また、一連の繁殖行動の中で抱卵と育雛はほとんど雌が行ない、その間は雌も雛もすべて雄が獲ってくる餌にたよっています。そして雛が大きくなると雌も巣を離れて餌を獲りに出掛けますが、この雌雄の役割分担の点でも体格の差は適してします。 実際にどれくらいの体格の違いかというと、全長が雌約53.5〜59pに対して雄約47〜52.5p。雄の最大個体は雌の最小個体とそれほど差が無いともいえます。しかし体重では雌が約1000〜1200gに対して雄は約600〜800gと平均でも約1.5倍の違いです。 また、オオタカの雛は巣立ちの時点で親とほぼ同じ大きさになりますから、この時すでに雌雄の差ははっきりとしています。そして、雄は早く親から独立し、雌の方が遅くまで親からの給餌を受けます。 ところで鳥の夫婦といえば、恋の季節には仲睦まじく、そして夫婦協力しあって子育てをするものです。恋の季節、キジバトが電線に2羽寄り添ってとまり、羽づくろいをしてやっている姿は実に微笑ましいものです。ハシボソガラスなんかは「もう見ていられない」といいたくなるほど“イチャイチャ”したりします。でも、オオタカ夫婦のそんな姿は見たことがありません。・・・なぜでしょう。 オオタカの雄は小鳥などの獲物を雌のもとに運びプレゼントします。求愛給餌といわれるものです。雄が餌を運んでくるとケッ、ケッ、ケッという鳴き交しがあり、餌渡しは一瞬にして行なわれます。プレゼントというよりも雄から雌が奪い取るような感じです。 3月下旬、産卵が近づき交尾が頻繁に行なわれるようになります。交尾の前後は雌雄同じ枝に止まることもありますが雄はかなり緊張しています。2羽がくつろいで止まっているときには1〜2m離れているか別の木にとまっています。どうも雄は雌が恐いのです。まさか取って食われてしまうこともないでしょうが・…。 オオタカは自分と同じ位の大きさの鳥まで狩ることがあると書きましたが、巣の中や巣の下には時にサシバやハイタカの骨とか羽も落ちています。もちろんオオタカが食べたものです。サシバはオオタカの雄とほぼ同大のタカです。また、鷹匠が飼っている雌のオオタカは時に雄のオオタカを襲ってしまうといいます。 考えてみれば雄は子供の時から、身体の大きな姉(?)の怖さを知らされているのでしょう。餌の争奪戦では体力のある姉のほうが有利で、姉が満腹の時でなければ弟(?)はなかなか餌にありつけません。巣立ちしてからは親が運んでくる餌を巣の近くの林で待っていて我先にと受け取るのですが、弟はまめに動いて大きな姉に対抗している感じです。親からの給餌が減ってくると弟は空腹に耐えかねて自ら独立して行くしかありません。姉は身体が大きい上にあまり動かないから腹の持ちもいいのでしょうか、いつまでも親がくれる餌を待っています。 雛が成長盛んな頃、雄親は本当に大変です。雌は雛達のいる巣を見守りながら雄に餌を催促するピィェー、ピィェーという声で鳴きます。かなり大きな声ですから狩のために飛び回っている雄には遠くでも聞こえているでしょう。狩りに成功して雌のもとに運んでも小さな獲物ではすぐまた催促です。雛がさらに大きくなると雌も狩りに出掛けるようになりますが雄の働きで足りる間はそうは動きません。子供の頃からそうだったのです・・・。 ですからこの時期雄はほとんど巣の近くにいることなく働き続けています。ピィェー、ピィェーという声が聞こえる以上、手ぶらで家には帰れないのです。たまに十分な餌を雛と雌に届け、自身も満腹らしく営巣地の樹上でゆったりとした様子で見張りに立っていることがあります。そんな時には「たいしたもんだ」と感心してしまうのです。 つい、雄に対して同情的になってしまいました。機会がありましたら今度は雌の子育ての様子について書かせ頂きたいと思います。それは愛情豊かで、繊細な母親としての姿があります。 |