特集「浜名湖の自然」 浜名湖と周辺の植物 |
発行:2000/12/05
杉野孝雄 (掛川草の友会)
1.浜名湖の植物 浜名湖は今切口で外洋とつながっているので、湖水は塩分を含み塩生植物や海浜植物が生えています。奥浜名湖や川の水が流れ込む塩分の薄いところでは、アシやツルヨシ、マコモ、ガマ、ヒメガマ、ウキヤガラなども分布しています。 塩生植物は秋に美しい紫色の花を咲かせるウラギクやシオクグ、シバナ。海浜植物は、3月下旬からハマダイコンの花が咲き始め、ハマエンドウ、ハマボッス、ハマナデシコ、コウボウムギ、ハマヒルガオと咲き続きます。夏の終わりを彩るのはハマカンゾウで、秋になるとツワブキが咲きます。ツルナやハマニガナは一年中花を咲かせています。 湖水中にはアマモが群生しています。藻場として、魚の隠れ家や産卵場所になる重要な植物です。別名にリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシという植物では一番長い名があります。水中にたなびく細長い葉から連想してつけられたのでしょう。湖岸によく打ち上げられています。全体が小形のコアマモも見られます。 湖岸の植物で目立つのはダンチクです。アシに似ていますが高さ3〜4mになる大形の草本で、8〜11月に30〜50cmの円錐形の大きな穂をつけます。葉にかぎ状のとげのあるヒトモトススキ、夏に穂をつけるトキワススキなども群生しています。 2.浜名湖周辺の林 浜名湖周辺の山地や寺社林には、シイ・カシ林など暖温帯を代表する林があります。舘山寺は1、200年前に開山した古いお寺で、裏山はシイ林で覆われています。林内にはミミズバイ、ヤブツバキ、ヒメユズリハ、ヒサカキなどが生えています。対照的なのは大草山で、アカマツ林があります。林内には春はコバノミツバツツジ、モチツツジ、ヤマツツジ、アセビ、秋にはツクシハギ、マルバハギの花が咲きます。その他、シャシャンボ、ネジキなどがあります。アカマツ林は北側の尉ヶ峰の山地にもあります。 テンダイウヤク 浜名湖の西に連なる湖西連峰には、ヤブツバキ林、アカガシ林、ウラジロガシ林、イヌツゲ林、ヒイラギ林などあります。バリバリノキ、ルリミノキ、ヤマビワ、カンザブロウノキ。つる植物のカギカズラ、ハスノハカズラ。シダ植物のタカサゴシダ、ナチシダ、ナチクジャク、エダウチホングウシダなど暖湿帯南部から亜熱帯、熱帯に分布する植物もあります。 また、トキワマンサクの群生地が湖西市神座に、中国原産の常緑低木で漢方で薬にするテンダイウヤクの群生地が細江町気賀にあります。北方系の植物も南下していて、マンサクの群生地が三ケ日町鵺代、細江町気賀などにあります。これらはいずれも天然記念物に指定されています。 3.浜名湖周辺湿地の植物 浜名湖周辺には各地に湿地があります。湿生植物、特に食虫植物の宝庫として知られていましたが、住宅地などとして開発されたり、放置されることで乾燥地化して、ほとんどが失われてしまいました。 ウラギク 残っている湿地には、サクラバハンノキ、ナガボナツハゼなどの大木やつる植物のシロバナカザグルマ、草本のサワギキョウ、サワオグルマ、ヌマトラノオ、ミズギク、サワシロギク、シンジュガヤ、ケシンジュガヤ、食虫植物のモウセンゴケ、コモウセンゴケ、ミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、ホザキノミミカキグサなどがあります。 イワショウブ、ミカヅキグサ、ヌマガヤなど高地の湿地に分布する北方系の植物もあります。これらは、今よりも気温が低かった時代に、北方から南下してきて分布していた生き残りでしょう。 4.植物分布の特異性 静岡県の植物分布は、天竜川付近を境にして西側は、愛知県や岐阜県、三重県など伊勢湾周辺地域と共通する植物があります。例えば大木ではクロミノニシゴリ、ナガボナツハゼ。草本では湿生植物のシラタマホシクサ、ミカワバイケイソウ、トウカイコモウセンゴケなどです。これらの植物群は「東海丘陵要素」、生育している地域を「周伊勢湾地域」と名付けられています。 |