異論・反論 「屋根のない自然博物館の展開」について |
発行:2000/12/05
伊藤 通玄(静岡県地学会)
本会の会員でもある秋山恵二朗氏(日本ビオトープ協会会長)が静岡新聞2000年10月31日朝刊の時評で、「屋根のない自然博物館の展開」について論じておられる。その要旨は「本県は自然誌系の総合博物館を持たない数少ない県であるが、昆虫、植物、地質など各分野に造詣の深い人々を数多く輩出しているから、いっそのこと屋根のない博物館構想を全県的に展開したらどうか」というものである。 秋山氏はその理由として、「これからは地域ごとの教育力を高めるソフト開発にこそ重点を置きたい。仮に立派な自然誌系博物館を建設したとしても、それが標本の倉庫であるだけなら、県民にとって迂遠な存在のままであろう。 むしろ、建物がない現状こそ、自然を学ぶ学習プログラムの開発に知恵を絞りこむことができ、そこに予算を傾けられる」と述べておられるが、博物館の一部であるに過ぎない「標本収納庫」を誰も「立派な博物館」とは認めないであろうし、「標本収納庫」だけを整備することを発想する人もまずいないであろう。その理由は優れた学習ソフトの開発には、それを支える充分な一次資料の蓄積と情報処理機能(人と施設)の整備が欠かせないからである。 氏もご承知の通り、私たちが構想し県知事あてに提案中の「自然史系博物館」は、自然の諸側面を総花的に扱う自然誌博物館ではなく、静岡県を中心とする多様な自然の歴史や仕組みを体系的に学ぶとともに、それぞれの地域や地球の未来を予測し、地域環境や地球環境の保全・復元のために汗を流す人々を育み、自然を愛する国内外の人々と幅広く交流することをめざしている。 そのためには情報収集・情報処理・情報発信・調査研究・学習交流機能などを備えた「屋根のある自然環境情報センター」(中核館)と「その周辺の自然そのもの」(エコミュージアム)、それぞれの地域の自然の特徴を活かして計画的に配置され、情報ネットで結ばれた「屋根のある地域活動・交流センター」(地域館)と「その周辺の自然そのもの」(エコミュージアム)がともに必要と考えている。 氏が述べられている「自然体験学習のフィールド」(エコミュージアム)を可能な限り多数設けることには大いに賛成であるが、それらのフィールドを適切・安全に維持しつつ活用するためには、各フィールド内の適地に「屋根のある情報発信・学習交流・環境保全・緊急避難等の機能を持つ施設」(地域館)が必要ではないだろうか? 氏が危惧されている「日本一多様な自然を誇る地域を学ぶにあたって、1カ所に県内すべての情報を集めようという1極集中的な発想」を私たちは持っていない。ただし、先人たちの残した貴重な標本・資料や大規模工事などで得られた貴重な資料の散逸を防ぎ、安全に保存・管理するとともに効率的に調査研究・情報処理・情報発信するためには、充分な専門スタッフを擁する中核的機関(自然環境情報センター)と、ここで得られた信頼度の高い自然環境情報や実物標本が県内各地の「エコミュージアム」に設置された「地域活動・交流センター」(地域館)で活用できるシステムの構築がともに必要と考える。 |