コラム「しずおかの自然」 静岡県に土着したナガサキアゲハ |
発行:2000/12/05
北条篤史(静岡昆虫同好会)
今年の8月下旬に御前崎、浜岡町でナガサキアゲハが多数発生しているとの話を聞いて友人について浜岡町へ調査にゆきました。 山間に密柑畑が点在していて、地元の方にうかがったら、この密柑は農薬をかけてないとおっしゃった。昼頃から青鱗を放つ黒い大きなナガサキアゲハが農道を悠々と舞いだした。しばしばクサギの花に訪花する雄姿は南国の風景を思わせた。 友達と雌雄あわせて十数頭のナガサキアゲハを目撃して、これは今年南方から飛来した「迷蝶」では無いなと思った。少なくとも一年か二年ほど前に受精卵を持った雌が飛んできて、柑橘類に産卵して生息をはじめたのだろう。 じつは、昨年の10月に三重県の松阪市の蝶友を訪ねたとき、ナガサキアゲハの幼虫がキンカンに多数見られ驚いた。彼の話では、去年あたりから市内でよく見掛けるようになって今年は庭に定着して普通に見られるようだ。静岡にも来年あたり定着するかもしれないと話し合ったばかりだった。 ナガサキアゲハは本州では紀伊半島から西南へ四国、九州に分布する南国の蝶です。4月の終わり頃から成虫が発生して10月頃までダイナミックに舞う姿が見られます。その間に3回ほど発生を繰り返し、蛹で越冬する。母蝶は栽培の蜜柑類に好んで産卵するため、静岡県の里山は柑橘類が多く食生からも、気候的にもナガサキアゲハにとって最良の環境である。 ナガサキアゲハのオス(浜岡町産) ナガサキアゲハのメス(屋久島産) その後、静岡昆虫同好会の人達によって静岡市、清水市から由比町、蒲原町、富士川町に渡って調査が行われて、いずれも柑橘類の多い里山の谷あいでナガサキアゲハが確認された。もともとは、南国からの「迷蝶」だったこの蝶が土着出来たのは、最近の気候の温暖化による影響もあるだろうがもっと大切な要因として考えられることは、過去に何回も静岡県へ飛来を繰り返した「迷蝶」がついに定着できる好環境の里山があることではないでしょうか。 今年の夏に訪れた南国の屋久島も里山の美しいところで、真っ青な空に咲くハイビスカスに訪花するナガサキアゲハの雄姿は南国の風物詩でした。駿河路の山あいに咲く彼岸花の群落に飛来する、ナガサキアゲハの漆黒の雄大な姿は美しい風景です。 |