コレクション紹介(9)
小澤智生氏 貝化石標本

延原 尊美

最終更新日:2007年9月19日


  

 2007年3月をもって名古屋大学大学院環境学研究科教授を定年退職された小澤智生氏より、掛川層群産貝化石コレクションを寄贈いただきました。

 掛川層群とは、今から約500万年〜100万年前に静岡県の遠州地域一帯に広がっていた海に堆積した地層群で、貝化石を豊富に産することで昔から有名です。掛川層群からは、モミジツキヒガイ Amussiopecten praesignis、パンダフミガイ Megacardita panda、スウチキサゴ Umbonium suchienseなどの多くの絶滅種が、1920年代に次々と新種として記載されました。これらの絶滅種は、高知県や宮崎県などの同じ時代の地層からも発見されており、当時の古黒潮洗う西南日本の太平洋岸に繁栄していたことが知られています(そこで、当時のこれらの暖流系動物群を「掛川動物群」と呼んでいます)。小澤氏のコレクションは概算でも数千点におよび、掛川層群のほぼ全層準にわたっていることから、かつての暖流域に繁栄した絶滅種の栄枯盛衰や形態の進化を語りかけてきます。

 掛川動物群は、次の二つの点で注目されています。ひとつは、現在は台湾以南にしかいないような熱帯・亜熱帯性の貝類が化石として産出すること、もうひとつは、日本周辺にのみ分布する種群が時代とともに殻形態を変化させていることです。後者の代表としては「ながらみ」としても食卓に登場するキサゴ類があげられます。キサゴ類のような日本固有要素の進化は、日本の海洋動物相の成り立ちを考える上で重要な鍵となります。

 小澤氏は、九州大学助手、東京大学助手、兵庫教育大学助教授を経て、名古屋大学助教授さらには教授と歴任する間、キサゴ類の進化をつまびらかにすべく、化石・現生を問わず各地の集団標本を収集しました。そして、殻形態の情報だけでなく、DNAの遺伝情報に基づく分子系統学的な手法をも導入して、繰り返し起きた気候変動とキサゴ類の進化の関係を明らかにしています。掛川層群のキサゴ類化石の集団標本は、寄贈標本の中でもとくに注目すべきものです。時代を通して20数産地から、それぞれ200個体以上の保存良好なキサゴ類化石を収集され、その形態の進化を如実に追跡することができます。また、共に産出する他の貝化石を一セットで産地ごとに採取されている点もたいへん重要です。私たちは、それらの標本から「キサゴ類の進化が起きたのはどのような生息場所なのか?」、また「その背景にどのような気候変動があったのか?」も見ることができます。


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登録日:2007年9月19日


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