日本にもいたゾウ

柴 正博

最終更新日:2007年9月19日


 NPO自然博ネットでは、昨年末に牧ノ原市でナウマンゾウ発掘調査を行いましたが、日本にも約2500万年前からたくさんのゾウがいました。ちょうど、東海大学自然史博物館でも「ゾウの進化と仲間たち−静岡県にはナウナンゾウがいた、日本にはマンモスがいた−」という特別展を今年の1月2日〜4月8日に開催していることから、ここではゾウの進化や日本にいたゾウについて紹介します。



ゾウはどんな動物

 ゾウの現生種は、アジアゾウ(Elephas maximus)とアフリカゾウ(Loxodonta africana)の2種類ですが、中新世から鮮新世(約2500万年〜200万年前)には大発展をとげてたくさんの種類のゾウが地上を歩いていました。

 ゾウの仲間の最初の化石としては、北アフリカの始新世(約5000万年前)の地層からいくつか発見されています。それによると、ゾウの先祖は胴長で足の短い背の低い動物で、水辺で半水生生活していたと考えられています。また、前歯が少し突き出し、犬歯もまだあり、大臼歯も上下左右の顎にそれぞれ3本ありました。

 ゾウは長い鼻をもっているので長鼻類と呼ばれますが、長い鼻は実は上唇がのびたもので、昔のゾウには長い鼻はありませんでした。

 ゾウの仲間を化石からたどると、一対の長くのびた切歯(牙)をもち、臼歯は咬頭が横列をつくり、5本の蹄のある足指をもつという特徴をもつことがわかります。そして、ゾウは蹄をもつことから、有蹄類などと同様に、恐竜が絶滅したころ(約6500万年前)から約5000万年にいた顆節類という蹄をもつ動物の先祖から、直接生まれたと考えられています。
 中新世(約2500万年)になると、マムートやゴンフォテリウムなどのゾウの仲間が発展しました。ゴンフォテリウムは上下の顎が長く、そこにそれぞれ2本の牙があり、臼歯が上下左右の顎にそれぞれ2〜3本はありました。

 鮮新世(約500万年前)になると、アジアではステゴドンというゾウが発展しました。このゾウは下顎が短く、下顎の牙もなくなり、体が大型化して上顎の牙が巨大になりました。また、顎が短くなった分臼歯が1〜2本しか生える場所がなくなり、後ろの臼歯はすでにある歯を前に押し出して生えるように、いわゆる水平に臼歯が移動して古い歯と新しい歯が交換するようになりました。現在型のゾウ(エレファス)では、上下左右の顎にそれぞれ1本の臼歯しかなく、そのかわり鼻(上唇)が長く伸びて強い筋肉がつき、起用に鼻で草をつかみ口まで運んでいます。

日本にはどんなゾウがいた

 日本にも地質時代にたくさんのゾウがいました。日本で知られる最古のゾウの化石は、瑞浪地域の前期中新世(約2500万年)の地層から発見されたアネクテンスゾウ(Gomphotherium annectens)ですが、日本で発見されるゾウ化石のほとんどは約300万年以降地層から発見されるもので、特に40万年以降の地層からはナウマンゾウの化石が多数発見されています。

 前期鮮新世(約500万〜300万年)の地層からは、シンシュウゾウ(Stegodon shinshuensis)というステゴドンが発見されていて、後期鮮新世から前期更新世(約300万〜100万年前)の地層からはアケボノゾウ(Stegodon aurorae)という日本列島(本州・四国・九州)固有の小型のステゴドンが発見されています。このアケボノゾウはシンシュウゾウの子孫らしいことから、前期鮮新世以後に日本列島が孤立して小型の固有種であるアケボノゾウが生まれたと考えられています。

 約100万年前の前期更新世の地層からは、シガゾウやプロキシムスゾウ、カズサジカなどの化石が発見されます。この時代には、これら新たな動物が大陸から移動してきたために、それまでの日本列島で固有化したアケボノゾウなどの動物のほとんどが絶滅したと考えられています。

 約60万〜50万年前の地層からはトウヨウゾウ(Stegodon orientalis)の化石が発見されます。このゾウの化石は、近畿地方ではマチカネワニやウシとともに産出し、他の地域でもこのほかにカズサジカ、楊氏トラ、徳氏スイギュウ、マツガエサイなど中国中・北部から発見される哺乳類動物などをともないます。このことから、これらの動物は約60万年前に対馬海峡にできた陸橋を渡って、日本列島にやってきたと考えられています。

 日本にすんでいたゾウとしてよく知られるナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanii)は、その模式標本が静岡県の浜松市佐浜から発見されています。ナウマンゾウの名前は、明治時代に日本にきた地質学者ナウマンにちなんでつけられました。ナウマンゾウの化石は、右の図のように日本列島の各地の36万〜3万年前までの地層からたくさん発見されています。

 ナウマンゾウに近いゾウとして、東シナ海や台湾、琉球列島で発見されているナルバダゾウというゾウがいます。しかし、ナウマンゾウの頭蓋骨のタイプはナルバダゾウではなく、それよりも古いアンティクゾウ(Elephas antiquus)のシュトットガルト型に近く、このことから約40万年前にユーラシアやアジアにいたアンティクゾウが日本列島に渡り、それが固有化してナウマンゾウになったと、最近では考えられています。

 北海道と沖縄を除く日本列島は、そのアンティクゾウが渡ってきて以降、大陸と陸続きにならなかったため、現在の日本列島にいる陸棲動物のほとんどは、そのときに大陸から渡ってきた子孫だと考えられています。

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登録日:2007年9月19日


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