図書紹介

最終更新日:2007年9月19日



公園と街はずれの自然観察
清 邦彦 著 新風社 ¥1300+税
 
 当NPOの理事でもある、著者の清先生は、静岡にある私立学校で、中高の女生徒に生物を教えておられます。この本は、学校の自然研究部の生徒と身近な野外へ出かけ、そこで観察、体験した記録です。古い人間には、少々理解しがたい今風女学生の、感性というか、表現が、面白おかしく描かれており、読んでいてほほえましく感じます。特に、観察地が、駿府公園、麻機沼遊水地など身近な場所であることも、親しさを感じます。さらに、中に挿入されている精密なペン画も、著者の自筆であり、その素晴らしさにもまたまた感動です。

清先生の文章は、静岡新聞に、「女子学生のサイエンス」という題で連載もされており、そのユーモアたっぷりの文章に、多くのファンがいます。この本は、我々自然愛好者にとっても、一般の方への自然観察のさせ方を、どうすればいいのか、勉強になる本でもあります。             (三宅 隆)




カイミジンコに聞いたこと
花井 哲郎 著 どうぶつ社 ¥1300+税

著者は、「カイミジンコを研究する者で、Hanaiという名を知らぬ者はもぐりである」と云われるくらい、この分野の世界的な権威である。カイミジンコは、二枚の殻をかぶった甲殻類(オストラコーダ、介形虫)の別名で、水気のあるところならどんなところにもいる生物なのだが、その姿は顕微鏡でないと見られないほど小さいため、この生きものを知る人は少ない。

 この随筆はカイミジンコを題材にしたものではなく、日常生活の中で目にする何気ない自然やごくありふれた出来事を、ミジンコが観察し、そのミジンコから聞いたこととして語られている。不肖の弟子である私の推測だが、著者は自らをミジンコになぞらえている。それは、収録されている50話のすべてがそうであるが、普通の人なら、いつも見慣れている自然現象や日常茶飯事の出来事など、どうでもよいことで、気にも留めないでやり過ごしてしまうのに、このミジンコは、「なんで」「どうして」と子供のようにしつこく詮索好きなのである。それらの疑問をミジンコから聞いたこととして短く軽快なタッチで描き、話の終わりには古生物学者としての「(落語で云う)落ち」が簡潔に述べられている。

 話は自然や生物のことだけでなく、車中の人や車窓風景、大学入試や大学での講義、自然科学から落語まで、自らが体験した雑多な普通の出来事を扱っている。著者はチョウを追いかける昆虫少年でもあった。虫採りにうつつを抜かす子供がもっと増えてほしいこと。しかし、現代社会はこのような少年が育つ環境にはほど遠いことなども語っている。とにかく面白い。こんなものの見方があるのかと驚きをかくせない。「落ち」には、著者が専門とする進化理論や科学哲学が顔をのぞかせ、ちょっと考えないと理解できないところもある。
 自然史科学の原点がここに語られているような気がする。                   (池谷 仙之)

自然史しずおか第16号の目次

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登録日:2007年9月19日


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