標本の重要性と
地球規模生物多様性情報機構(GBIF)との連携

柴 正博

最終更新日:2007年9月19日



 本年度、NPO自然史博ネットでは県の承諾を得て、これまで県に寄贈登録された標本コレクションのうち伊藤二郎氏の植物標本と植田 亨氏の貝類標本を、国立科学博物館が行っている自然史検索システムのデータとして登録します。

 この自然史検索システムは、日本全国の博物館や大学などの自然史標本データを横断的に検索するシステムで、各館の標本データを標準フォーマットに変換して公開するものです。また、この検索システムは、収集されたデータをもとに、日本における地球規模生物多様性情報機構(GBIF)に対応したデータにして、全世界に公開するものです。ここでは、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)についてと、このような自然史標本の重要性についてご紹介します。

 地球規模生物多様性情報機構(GBIF: Global Biodiversity lnformation Facility)は、OECDの国際的学術団体として2001年にデンマークのコぺンハーゲン大学付属動物博物館に設置され、正式加盟25カ国、準加盟として40の国の機関と組織が参加して、拠出金(日本とアメリカが各20%で最大)により運営されています。各国の動物、植物、微生物、菌類等生物多様性に関するデータを有する研究機関と博物館をネットワーク化して、全世界的な横断検索により利用することを主目的とした国際科学プロジェクトです。現在、欧米を中心として8,500万件以上の標本データが提供されています。

 日本では外務省が事務局となり、文部科学省、環境省、農林水産省などの省庁が参加した「GBIF関係省庁連絡会議」があり、実行上は文部科学省が中心となり、科学技術振興機構(JST)に「GBIF技術専門委員会」が設置されています。平成16年度から国立遺伝学研究所(遺伝研)が日本のGBIF用の結節点(ノード)を運用管理しています。しかし、遺伝研だけでは大学はもとより自然史系博物館の所蔵する自然史標本データのGBIF用データへの変換と提供に限界があり、国立科学博物館が主に自然史系博物館の電子データ化された標本資料の横断検索開発を進めていくことになりました。そして、ここで収集された標本データを、日本語自然史検索システムのデータとして、さらにGBIFデータとして活用して国際的に提供して発信していくことになりました。

 自然史標本が全国的にデータベース化されることにより、たとえば植物のさく葉標本であれば、採集当時の我が国の植物分布や生育環境がわかるだけでなく、絶滅種の確認、環境別・地域別の生育を知ることもできます。さらに、わが国の自生植物について生物資源や遺伝子資源、さらには貴重な薬用資源に関する再調査や追加調査などの学術研究にも利用できます。

 データベースは、その中に含まれるデータができるだけ多くあり、さらに追加されるものが、すばらしいデータベースになります。たとえば、インターネットとしてみなさんが利用しているWeb(WWW)は、全世界的で巨大なデータベースです。それを利用して私たちは即座に世界中の情報に、グーグル(Google)などの横断検索を使ってアクセスすることができます。

 自然史博物館の標本は、過去や現在の自然環境の実態としての証拠として残され、将来のデータとなっていきます。データベースは、データが多ければ多いほど多くの人によって利用されてすばらしいものとして成長します。もしも、私たちが標本をほとんど持たず、データも整理されていなかったならば、将来の人から見ると、私たちの過去や現在の自然環境はほとんど無かったことになります。

 しかし、私たちは実際に自然環境の中に生活しています。したがって、自然環境はあって当然のものという意識ではなく、現在や将来の人の生活を考える上に、自然環境をしっかりと知らなくてはなりません。そのために、過去や現在の自然環境の証拠としてさまざまな標本を残していくことは、非常に重要なことになります。そのことは、標本が将来の経済的な利益や資源利用に役立つというよりも、人が生きる権利に関する問題に対してより大きく役立つということを意味します。

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登録日:2007年9月19日


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