カラーコラム 16 |
静岡県の植物(5) 小笠山のスジヒトツバ 杉野 孝雄 発見後、土砂の崩壊や採取で絶滅したのではないかと心配されました。その後の調査で群生地も見つかり、2つの谷に5箇所の生育地が発見されその健在が確認されています。しかし、1箇所を除きその生育状況は良好とはいえません。 スジヒトツバはスジヒトツバ科のシダで1属1種。単葉で横に這う根茎から葉を出し、高さ30cmから60cmになります。胞子葉と栄養葉は別々につきます。写真の葉は全部栄養葉です。胞子葉は広線形で葉裏一面に胞子嚢をつけます。栄養葉の先は2叉することもありますが、小笠山のスジヒトツバでは胞子葉や2叉する葉はほとんど出ません。分布の限界の生育環境のためでしょうか。葉脈の様子や鱗片はなく金褐色のやわらかい毛を密生するなどから、原始的な形態をそなえたシダであるとされています。和名はヒトツバに形が似ていて、葉脈が筋としてはっきりしていることから「筋一つ葉」と名付けられました。 小笠山以外に国内では伊豆諸島、紀伊半島、四国、九州、琉球。国外では中国南部、インドシナ、マレ−シアからニュ−ギニアまで広く分布する南方系のシダです。全国的に個体数が多くても、その植物がどこまで分布しているかが重要です。スジヒトツバは小笠山が分布の北限自生地であり、県内では唯一の産地であることから、静岡県では絶滅危惧TB類に指定しています。 小笠山はシダ植物の宝庫として知られていますが、マツバラン、リュウビンタイ、タカノハウラボシなど貴重なシダが次々と開発や採取で失われています。掛川市ではこの貴重なスジヒトツバの生育地一帯を条例で指定し、保護することを検討しています。 静岡県の水生生物 スジエビ 大貫 貴清 スジエビは淡水性のエビの中では日本で最も広い分布域を持つものの1つです。北は北海道から南は琉球列島まで、海外ではサハリン、韓国、中国と、とても広い地域に分布しています。スジエビが棲む場所は、河川や湖沼など淡水域であればあらゆる場所に生息しています。 日本では琵琶湖や霞ヶ浦などで特に多く漁獲され、同じように「川エビ」として利用されるテナガエビとともに、上で挙げたような食用や釣り餌などに利用されています。当然静岡県でもあらゆる場所に生息しており、公園の池や用水路といった身近な場所にもいたりしますので、ご存知の方も多いでしょう。 これほど身近で、普通種とも言えるエビですが、未だに明らかにされていないことは多くあります。魚採りをされる方は「沼や池と川のスジエビは違う」ということに気付いている方もいるのではないでしょうか? 実はスジエビには遺伝的に異なる2型が知られており、湖沼や河川の上・中流域に棲むものと、河川下流域に棲む2タイプが知られています。これらは、遺伝的には亜種くらい離れており、実験的に一緒にしても交雑することもありません。また浮遊幼生の好適塩分や塩分耐性も異なり、湖沼にいるタイプでは淡水中でも稚エビになりますが、河川下流域にいるタイプでは稚エビになれず、逆に100%海水中では湖沼にいるタイプの幼生は生き残れませんが、河川下流域のタイプでは稚エビになることが可能です。 また外見にも若干の違いがあります。上の写真でも判るように河川下流域のタイプのほうが筋が太く体のほかの部分にはあまり模様がありませんが、湖沼のタイプでは、筋が点描のようになっており、程度に差はありますが体にも細かい黒点があります。 このように両者には大きな違いがありますが、この他にも、湖沼に棲むタイプはそれぞれ隔離されているので地域ごとに若干の違いがあると言われており、特に琵琶湖産のものはかなり特異的であると言われています。 このように身近でありながら実は興味深いスジエビの変異ですが、近年では釣り餌としての需要が高く、琵琶湖産のものが流通しているほか、韓国や中国から大量に輸入されているようです。 近年は移入種の問題が深刻ですが、これらのエビが野外に放たれれば、同種であるが故に交雑がおこり、気が付けば地域固有の個体群がいつのまにか居なくなるという事も起こりえます。実際問題、中国から釣り餌として輸入されたヌマエビの一種が琵琶湖や淀川水系などで確認されており、在来のミナミヌマエビとの交雑が心配されています。ですから他の地域で採集したスジエビや釣りで余った餌のスジエビを野外に放つのは厳に慎みましょう。 |
自然史しずおか第16号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年9月19日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |