カラーコラム 14


最終更新日:2007年9月20日






ミヤマシジミ
Lycaeides argyrognomon (Bergstrasser,1779)

高橋 真弓
 シジミチョウ科の一種で、ミヤマというのは深い山という意味ですが、実際にそれほど深い山にすんでいるわけではありません。開張は28mmぐらいで、道ばたに見られるヤマトシジミよりもいくらか大型。♂の表面は青紫色に美しく輝きますが、♀の表面は暗褐色で後翅(羽)に数個のオレンジ斑があります。裏面の地色はわずかに褐色を帯びた白色で、前翅から後翅にかけて太いオレンジ色の縁どりのあるのが特徴です。

 この蝶は中部ヨーロッパからシベリアや日本を含む極東ロシアまで広く分布していますが、日本国内では分布が狭く限られ、おもに本州中部の河川沿いに生息しています。近年環境の変化のために多くの生息地が絶滅し、環境省のRDBでは絶滅危惧種U類に、静岡県版RDBでは準絶滅危惧種とされています。

 静岡県下では、現在安倍川、大井川、天竜川などの大河川の河原や堤防などに生息し、中小の河川では興津川流域のみに見ることができます。1950年ごろまで富士川下流の堤防にも見られましたが、ここでは1960年代に絶滅したようです。

 これらとは別タイプの生息地として、富士山麓の火山れきの多い“火山荒原”があり、富士宮市の大沢扇状地とその周辺、御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場、山梨県側では同北富士演習場などに生息しています。

 この蝶の生息地はマメ科植物の小低木コマツナギの多い河原やそれに隣接する堤防や火山れき原などで、その幼虫はコマツナギの葉や花を食べて育ちます。

 大井川中流などの河原では、成虫は5月後半から10月末ごろにかけて見られ、年に4回ぐらい世代をくりかえします。最後の世代から生まれた卵は、そのまま冬を越して、翌年の春コマツナギの芽吹きとともに孵化してその若葉を食べ始めます。

 幼虫は背中から蜜を出し、それにクロヤマアリやクロオオアリなどが集まって蜜をなめます。これらのアリ類は幼虫を攻撃しようとする寄生バエなどの天敵を追い払います。

 この蝶の生息地はそのまま放置されると、クズなどに被われて失われることが多いので、現在静岡市では“アドプト・プログラム”により草刈りそして、生息地を保全する事業を続けています。このような蝶を守るには人の力による自然への働きかけが必要なのです。



静岡県の地層(1)
掛川層群の火山灰層

柴 正博
 今から400万年〜100万年前に海底に堆積した掛川層群には、白色の火山灰層がしばじばはさまれています。上の写真は掛川市東平尾の道路沿いに見られる五百斎(いおずみ)火山灰層の露頭(地層が見られる崖)です。この火山灰層は、掛川市満水から桶田、中内田、東平尾、稲荷部、岩滑、菊川市大石、河東まで連続して見られ、白色から灰白色の細粒火山灰層と粗粒火山灰層が交互に重なっています。中内田から南ではその上に軽石が含まれるとても粗い火山灰層が重なり、地層の厚さも15mと倍になります。火山灰はほとんどが火山ガラスからなり、少量の長石、石英、黒雲母、角閃石が含まれ、その成分と上下の火山灰層の特徴から新潟県の中永白色火山灰層と同じものとされ、推定年代値が220万年とされています。

 火山灰は火山が噴火したときに上空に吹き上げられた細かな火山砕屑物で、落下して陸地や海底に堆積したものです。一回の火山噴火で噴出した溶岩や火山砕屑物はすべて同じ成分で、別の噴火活動の噴出物とは区別できます。したがって、同じ火山灰層が離れた場所で発見されると、それをはさむ地層は同じ時代に堆積したことがわかります。掛川層群のように砂層や泥層などの同じような岩相の地層では、地層の順番がわかりにくいために、他と区別できる火山灰層が連続することは地層の上下を知るのに役立ち、「鍵層」と呼ばれます。

 五百斎火山灰層のように厚い火山灰層を堆積させたような火山噴火が起こったとすると、陸地のすべてが厚い火山灰層に埋まって、植生が絶え山地が荒廃して大規模な山地崩壊や大洪水が起こったと考えられます。五百斎火山灰層の上部の粗い火山灰層は地すべり堆積層と考えられ、その上位に連続する粗い砂の地層とあわせ、大量降灰とそれにひきつづく大洪水の結果を記録していると思われます。

 右は、東名高速掛川インターの西側の造成地の露頭の写真で、3層の厚さの薄い火山灰層が見られました。私たちが調べた結果、掛川層群には150層以上の火山灰層がはさまれているのがわかりましたが、地層が見られる露頭が残されていないために、発見された火山灰層のほとんどは現在見ることができません。火山灰層は地層の鍵となる重要なものであるため、その露頭または標本の保存も今後課題となると思われます。




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登録日:2007年9月20日


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