博物館見学の報告 ジュネーヴ自然史博物館かけぬけ報告 板井 隆彦 |
![]() スイスとフランスとの国境にある美しいレマン湖とそこから流れ出てフランスに入り地中海に流れ出るローヌ川を視察するためジュネーヴを訪れた。視察の空き時間に「ジュネーヴ自然史博物館」を訪ねた。2005年9月13日のことである。スイス旅行のガイド本にスイスで一番大きな自然史博物館であるとの記事を見つけていたので、ジュネーヴでは是非訪れたかった。しかも、レマン湖という大きな湖と地中海につながるローヌ川という大河のそばにあるという点でも、淡水魚類の展示に期待を寄せていたからでもある。 自然史博物館はジュネーブの駅から歩いて約20分(途中道に迷ったのでよけいに10分ほど要したが)のところにある。市街地のはずれにあり、博物館の外は植物園的な公園の広い緑地となっていて、その中にもいくつかのミニ博物館などの施設がある。この緑地ははじめは博物館付属の植物園と思っていた。博物館の入口左手に水生植物の植栽をした池があったからである。しかしそうではなく、植物園は別のところにあるとのことであった。私にはフランス語の素養がないため、館の受付嬢からこれ以上の情報は得られなかった。 ![]() 建物の中は閑散としていた。私のつたない英語を理解してくれない受付嬢以外に職員が見あたらなかった。入館料は不要だが、入館者も少なかった。私が見学した2時間余のうちに、インドの装束をした中年・老年女性2名の他は、日本人の母子3名を見かけただけであった。館員の見あたらなかった理由はあとで分かったことだが、同行者とともに遅い昼食を食べに館内の食堂に立ち寄ったところ、館員(10名以上はいるように思われた)と外部から来たと思われる研究者たちが食堂内でも議論しており、また大急ぎでPCを開いてなにやらとりまとめをしている人も2人ほど見かけたので、おそらくは研究会のようなもの開催されていたのであろう。それらしい掲示はあったが、英語で書かれたものがなく、理解できなかったのである。 ![]() さて内部の紹介である。1階の入口を入るとすぐ鳥類と哺乳類の展示がある。湿原や草原といったイメージのかなり狭い空間に剥製ではあるが多種の鳥や鹿などが並べられている。展示はたいへん美しく見事である。しかし動くものはなく、手で触れられるものもない。とくに目を引くものがなかったので通り過ぎた。昆虫類の展示は貧弱である。印象に残ったものはトンボ標本程度で、あとは系統分類に沿って少ない標本がとりとめもなく展示されている。中2階には魚型(?)は虫類の骨格標本(もちろんレプリカ)がいくつかあるが、展示も貧弱で、解説がどこにあるか分からなかった(あっても読めないが)。 そもそも、この博物館では解説に英語が用いられていない。スイスの公用語は、独・仏・伊およびロマニッシュ語の4ヵ国語といわれ、商品などは多くには独・仏・伊の3ヵ国語の表示がある。しかしこの博物館の表示はこのカントン(スイスは連邦で州をカントンと呼び、おもな使用言語が決まっている)での公用語であるフランス語しかない。だから解説があっても、分かるのは学名ぐらいなもので、分布や生態などの記事は理解できない。 さて、いよいよ魚類である。2階には魚類のコーナーが広くとってある。剥製や模型ばかりで、液浸標本はほとんどない。期待のSilurus granis(和名はヨーロッパオオナマズか?)の巨大な標本に出会えるのか? たしかに魚はあった。しかし模型であって、できが悪い。期待は見事に裏切られた。また、レマン湖やローヌ川の地域の魚類相やその成立の歴史などには焦点が当てられておらず、広くヨーロッパ全体が対象とされていた。 ![]() というわけで、レマン湖やローヌ川に現在生息する魚は?とかこの水系での固有種は?とかの知識をほとんど得ることなく、3階に上り、は虫類・両生類の展示を大急ぎで見たあと、博物館から退散することとなった。 私のような外国人にとってこの博物館の問題点は、フランス語での解説しかないのが一番であろう。また、人を呼ぶ努力もあまりされていないように見受けられるのも感心しない。これは大学進学率が低く、高等学校から専門化してしまうというこの国の教育制度によるものも関係していると思われる。博物館には研究者がずいぶん配置されているのかも知れないが、わが静岡県立自然史博物館が目指すお手本とはならないものの一つだろう。 |
自然史しずおか第12号の目次 自然史しずおかのindexにもどる Homeにもどる 登録日:2007年9月20日 NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク spmnh.jp Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History |