カラーコラム 11


最終更新日:2007年9月20日






静岡県の両生類(1)
アカイシサンショオウオ

國領 康弘
 生物学を学んだ時に、まだ誰も知らない名の無い生き物を見つけ、名前をつけることが出来たらいいなという夢をずっと見ていました。幸運にもそんな機会に巡りあうことが出来ましたが、記載に向けてはかなりの時間と労力が掛かりました。アカイシサンショウウオは2004年に新種記載されましたが、最初の1個体を見てから、次の1個体を見るまで約10年、さらに記載されるまでに18年、合計28年が費やされてやっと記載までにこぎつけているのです。

 最初の1個体は現在京都大学教授の加藤真先生と弟の加藤 徹さんが学生の時、静岡市内の山中で採集され、大学の研究室に持ち込んだものでした。採集場所周辺をかなり丹念に探しましたがその後採集されることはありませんでした。次の個体が採集されたのはまさに偶然でした。中川根の山中で道に迷い、川に向かって直下に降りていた時、ふと石をめくるとこのサンショウウオがいたのです。さらに数匹を採取しました。しかし、そこは川からの距離も長く何処が産卵場所か皆目見当もつきませんでした。

 その次に採集されたのはさらに5年が経過してしました。今度は近くに川があるので幼生を採集しようと川の石をひたすらめくったのです、それこそ何日も、しかし一向に見つかりません、個体数が少ないためと夜行性のために見つかりにくいのではと夜間の調査も行いました。しかし、見つからないのです。日本に生息する小型サンショウウオは18種になりましたが、アカイシサンショオウオ除くそのほかのサンショオウオは幼生の方が観察しやすいのです。

 幼生期間は水に依存しているため、川ないしは池などを観察するだけですぐに発見できるのです。また、静岡に生息しているハコネサンショオウオ、ヒダサンショウウオは川の中で越冬幼生として1年以上水中生活するためいつでも簡単に見つけることが出来るのです。約2年ほぼ毎週生息地に通いました。川の中、林床の石はぐり、落葉かきを徹底的に行いました。通ううちに2ヶ月に1個体、ひと月に数個体と生息環境と観察できるところが判ってきたのです。途中当時京都大学院生の見澤康充さんの協力もあり調査は急速に進展していきました。成体の出現が、産卵期と考えられる時期にある一点に集中していることが分かってきました。そして待ちに待ったおなかの膨らんだメスが現れたのです。産卵場はやはりこの付近なのです。採集個体はすぐに京都大学に送り卵巣内のデーターを貰いました。卵径は大きく卵数は日本産のどの種類よりも少ないことが判明しました。産卵形態は流水タイプと断定できたのです。

 見澤さんと共に産卵場所と想われるところを掘り進みました。深さ1m以上長さ10数m、道具のピッケル、鍬も2人とも数本を失っていました。しかし、一向に卵のう(卵を包んでいる袋)の姿を見ることは出来なかったのです。このサンショウウオの生態はまだ完全に解明されたわけではなく、いまだに産卵された卵のうは見つかっていません。
 また、来年もまだ見ぬ卵のうを求め山に入ります。


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登録日:2007年1月3日


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