カラーコラム 9


最終更新日:2007年9月20日






静岡県の水生生物(4)
オイカワ

秋山信彦
 オイカワは清流に生息するコイ科の魚です。静岡県内ではアユやウグイなどと同様に広く分布しています。河川の中流域で生活していますが、河川から水田に水を引く水路やその周辺の小川でも見ることができます。産卵期の雄は写真の様に緑色と赤色のとても綺麗な婚姻色を出現します。また雄のシリビレがとても大きくなることも特徴の一つです。一方、雌は銀色のとてもスマートな形をしています。産卵期は5月ごろから8月ごろまでと比較的長い期間です。流れが緩やかで浅い瀬で雄雌が一対となって産卵します。この時に雌雄は寄り添いながら体を小刻みに動かしながら土煙を上げて産卵します。卵は2日ほどで孵化しますが、まだ目も口もない状態で、とても泳ぐことはできません。このような子供は石の隙間に潜った状態でしばらく過ごします。4〜5日経つと針のように細いながら泳ぐことができるようになります。この頃になると川の極浅い流れの弱い瀬で小さな群れを作って生活しています。よく、夏に川遊びに行くと子供たちが小さな魚をコップなどで掬っていますが、この多くはオイカワの子供です。針のような子供たちも少しずつ大きくなって遊泳力がつくようになると、川の流れに逆らって泳ぐことができるようになり、少しずつ川の中心へと移動してゆきます。

 夏の夕方には、上流から流れてくる水面に落ちた水棲昆虫を食べたり、水面近くを飛んでいる水棲昆虫をジャンプして食べる光景が見られます。このような性格を利用して毛ばりを水面に流してオイカワを釣る漁法もあります。

 最近、都市河川は三面コンクリートの護岸工事をしたためにいろいろな魚がすめなくなってしまいましたが、このような川でも底に砂が溜まってくると真っ先にこのオイカワがどこからともなく入り込んできて生活し始めます。そのために都会の真ん中でも比較的水が綺麗な場所ではオイカワを見ることができます。最近では生き物の数が減ったという話しか聞きませんが、このオイカワはいろいろなところでチャッカリと生活しているたくましい魚です。



コラム 静岡県の昆虫(8)
ウラナミアカシジミ

清 邦彦
 「ゼフィルス」と呼ばれる一群のチョウがあります。ゼフィルスとはギリシャの西風の神の名で、今ではいくつもの属に分けられていますが、以前はZephyrus属としてひとつにまとめられていた、樹上に住む20数種の大型のシジミチョウの仲間です。ミドリシジミ族としてまとめられていて、その名のとおり多くの種はオスが金緑色に輝くはねを持っていますが、水色、紫色、オレンジ色、あるいは真珠色をしている種もあって「樹上の宝石」にも例えられるチョウです。

 昆虫の幼虫が樹木、とくに落葉樹の葉を食べるとしますと、春から初夏にかけての芽生えから新緑の季節は、小さなチョウの幼虫が食べることのできる柔らかい葉のある唯一の季節です。だからこの時期の木にはいろいろな昆虫の幼虫がいて、またそれを利用する小鳥の繁殖の季節でもあります。ゼフィルスの仲間の幼虫はクヌギやミズナラなどの樹木の葉を食べるので、葉が硬くなってしまうまでのこの短い季節に幼虫期を終えてしまわねばなりません。葉が硬くなる頃にはさなぎとなり、やがて初夏から夏に羽化して成虫になるわけです。そして食物となる木の枝や来年の芽の近くに産卵された卵は冬を越して、翌春幼虫がふ化してくるというライフサイクルをもっています。

 ウラナミアカシジミもそのゼフィルスの1種で、オレンジ色をしていますが、特徴的なのは羽の裏側で、黒のゼブラ模様になっていることです。どうしてこんな複雑な模様をしているのでしょうか。あるいは反対にもともとこういう模様の方が原型だったという考えもあります。6月の中ごろ成虫となり、昼間は食樹であるクヌギの葉に静止していますが、夕方6時頃になるとクヌギのこずえの上を活発に飛び回ります。

 静岡県での分布が東西に分断されているのはクヌギの分布と関係ありそうです。薪炭林の減少とともにクヌギ林も少なくなってきました。とはいえ部分的にはまだ残っているところもあります。しかしウラナミアカシジミはクヌギ林の減少を上回る速さで姿を消してしまいました。なぜなら、若いクヌギの木にしか発生しないからです。クヌギの木は残っていても、伐採して若返りをさせずに放置しているので、古い木ばかりになってしまったのです。



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登録日:2007年1月3日


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