コレクション紹介(3)
高橋真弓氏の蝶類標本

諏訪 哲夫


最終更新日:2005年9月25日



 静岡県教育委員会三島分館には自然学習資料として寄贈された昆虫標本が続々集まりつつあります。現在のところ故人の方、蝶のコレクションをやめられた方なども含めて10名弱の方々から、ドイツ型大型標本箱に約200箱、1万数千頭の寄贈がありました。このほとんどは蝶の標本となっています。この中で最も数も多く、貴重なものを寄贈された高橋真弓氏の標本についてご紹介します。

 高橋氏は昆虫界では知らない人はいないほど有名な方で、会員ナンバー5,000を超える、全国の蝶や蛾の研究者・アマチュアで構成される日本鱗翅学界の会長であり、静岡昆虫同好会の創立者・代表者として50余年間にわたり地元の虫好き仲間を引っ張ってきた方です。氏がこれまでの60余年間かけて採集された標本の数は膨大なものですが、今回寄贈された標本はそのうちのごく一部ということになります。

 まず1973年、2回目の南米コロンビア熱帯多雨林の調査に行かれたときの採集標本です。

 ドクチョウ類(写真左)、ジャコウアゲハ類、セセリチョウ類、タテハチョウ類など目を見張るほど美しいものや、毒チョウに擬態している種類など約2600頭余りで、これらは普通種から稀種までをふくみ南米の蝶相を知る上で大変参考になる標本といえます。

 次にヤマキマダラヒカゲの標本です。静岡の平野部から標高2000mを超える山地まで広く生息しているキマダラヒカゲはいわゆる普通種として余り関心をもたれなかった種でしたが、平地に住むものと山地に住むものと裏面の黒さなどに違いがあると気づき、白っぽい平地型、黒い山地型と区別し始めたのは高橋氏でした。その後この問題に集中して取り組み、成虫の斑紋、幼生期の形態や習性、生息地の状況など総合的に検討した結果、それぞれは別種であることを突き止めました。幼生期の研究のため飼育し、羽化した標本です。

 さらに「種」についての検討を引き続きされています。本州、奄美大島、沖縄各島といった異なった所に住むヒメジャノメの個体群が、少しづつ違う斑紋をしているが果たしてこれらは「亜種」なのか[別種]なのかという大きな課題について研究されました。外部形態の相違についてもちろんのことさまざまな角度から検討しましたが、とくに本州×沖縄、本州×奄美大島、沖縄×奄美大島などいろいろな組み合わせによる交配実験を行いました。その結果雑種の出来具合から本州産のものと奄美大島以南産のものとはそれぞれ別種であることを発見しました。寄贈標本はその時交配した結果の羽化標本で、産地の組み合わせにより「羽化不全」や「健全」(写真右)となり「種」、「亜種」の違いを知ることができます。

 寄贈された標本は、「過去の記録」ということのみにとどまらず、研究の方法やその過程なども学べる大変貴重なものといえます。

 今後とも、これらに資料を幅広く有効に活用されることを望んでいます。


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登録日:2005年9月25日


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