コラム 静岡県の昆虫(7)

静岡県下に侵入・定着した
タイワンウチワヤンマ

福井順治
(野路会・桶ヶ谷沼を考える会)


最終更新日:2005年9月25日


タイワンウチワヤンマ

 タイワンウチワヤンマは、その名の通りに台湾、中国南部、インドシナ半島などに分布する南方系のトンボです。ヤンマという名前がついていても、分類上ではサナエトンボの仲間で平地の池沼に生息し、成虫は7〜9月にあらわれます。国内では沖縄や九州、四国の南部に生息していましたが、1980年代後半頃より京阪神地方を中心にして分布拡大が注目されるようになりました。しかし東海地方では長い間、三重県南部まで分布する状況のままで留まっていました。

 ところが1996年になって、愛知県を飛び越して、静岡県の真ん中に近い榛原郡川根町で大量の羽化殻の記録とともに発見されました。この産地は従来の分布東限(三重県南部)を一気に100kmほど更新していたため、その中間地点での分布状況を確認しようと考えて、愛知県の渥美半島を含めて遠州灘の海岸沿いを中心として、本種の生息の可能性のある池沼を片っ端から調査しました。その結果、榛原郡相良町、同郡御前崎町(現御前崎市)及び浜松市でも見つかりました。

 その後2004年までの8年間の追跡によって、既知産地ではほとんど翌年以降も続けて発見され各所で完全に定着していることがわかりました。さらに、分布が拡大していることを示すいくつかの新産地も見つかりました。2000年には浜岡町(現御前崎市)、掛川市でそれぞれ複数の池沼で初めて発見され、次いで2001年には磐田市桶ヶ谷沼でも見つかりました。さらに2003年には榛原郡相良町の産地から約50kmも離れた伊豆半島の西海岸、田方郡戸田村でも新産地が発見されました。そこは駿河湾に面した海岸近くにある孤立した池沼ですから、この記録は本種が徐々に分布を拡大していったというより、駿河湾を一気に越えていったと考えられるものでした。

 昆虫類の最近の傾向としては、南方系の種が分布を拡大している例が目立ちます。その原因については諸説があるものの、このタイワンウチワヤンマについては、分布域と過去の平均気温を詳細に分析して、温暖化が原因であると指摘した報告があります。このトンボが今後さらに分布を拡大するのか、もしそうなら藤枝市や静岡市などにはいつごろ侵入するのかを注目しているところです。



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登録日:2005年9月25日


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