見学会・観察会報告

自然学習資料保存室の視察と
柿田川湧水自然観察会



及川 忠弘

最終更新日:2004年5月4日



3階の資料収蔵室で植物標本を保管する茶箱を
チェックする参加者。。
4階の資料収蔵室に展示してある標本を見な
がら説明を聞く参加者。
柿田川湧水。 杉野さんによる柿田川湧水の植物の説明。

 1月25日(日)、三島市に設置した自然学習資料保存室の視察と、清水町の柿田川湧水自然観察会が行われた。
 当日は天候に恵まれ、快晴の真っ青な空を背景に、真っ白な雪に覆われた富士山が望めるほどであった。また、この季節にしては冷え込みもなく、野外観察にも気楽な陽気となった。

 バックナンバーでもお知らせしている通り、資料保存室は、三島駅至近の静岡県教育委員会三島分室から部屋を借りて設置されている。もともと三島分室には放送大学、埋蔵文化財保存、などの機能が入っていたが、それらの機関と肩を並べての設置といえる。この三島分室は三島市内でも最大の文教地区に建っており、周囲には静岡県立北高校、日本大学三島キャンパス、三島市立北中学校、三島市立北小学校などがある。将来、保存室の成果を公開するにも持ってこいの環境といえる。

 県による保存室の位置づけとしては、まだ博物館開設の準備室でもなければ、資料の収集・保管を行うバックヤードでもないわけだが、実質の活動内容はそれらの機能を担おうとしているところだ。

 4階の資料整理室には、資料の一部が展示されており、池谷仙之先生のゴトランド島の化石、田邊 積さんの掛川の化石、伊藤二郎さんの植物標本、高橋真弓さんの昆虫標本などが並んでいる。保存室担当の森 義之さんからは、資料の受付から必要情報の記録、同定、登録、標本整理番号の付帯など、一連の資料登録作業の流れをうかがった。また、柴 正博先生からは登録した標本をコンピュータでデータベース化し、記録する作業についてうかがった。

 3階の資料収蔵室は、昆虫標本を収蔵する一室と、化石標本と植物標本とを収蔵する一室とに分かれている。どちらの部屋も日光を遮るため、窓には目隠しがしてある。しかしながら、もともとが普通の研修施設・事務室のような作りであるため、第一線の博物館のバックヤードのような室温・湿度の調整をする装置はなく、虫害対策も徹底的ではない。また、標本を整理するスチール棚も不足しているため、標本の入ったコンテナやバットがまだ床に並んでいる状態でもある。将来的には室内に機能的にスチール棚を設置し、資料の収納もスマート化する予定である。

 会員の方からは、魚類の液浸標本の受付についての質問もあった。液浸標本は、保存液であるホルマリン溶液の揮発の問題もあり、室温調整、空調設備の整ったバックヤードでなければ大量の収蔵は難しいのが実態であり、これから先、剥製など動物標本を取り扱う際と同様に課題となりそうである。

 博物館は、ある一定のテーマのもと、資料を収集・保存し、研究・展示を行うことによって社会教育に役立てようとする機関である。資料の収集と保存は、博物館運営の大元となる事業であり、図書館が図書を収集・保管するのと同等に重要な任務である。今現在、保存室はその大元となる作業に地道に取り組んでいるところであり、これからも会員の皆さまのご協力を祈念したい。

 保存室の視察を午前中に終え、午後からは清水町にある柿田川湧水での観察会となった。柿田川は、清水町の中心市街地に存在する泉と川である。湧水群は、周囲よりも10メートルほど落ち込んだ谷となっているが、その周囲には住宅地が迫り、国道1号線が間近を走り、大型ショッピングセンターも至近である。

 この湧水地は、富士山とその周辺の雨や雪解け水が地中にしみこみ、それが地下水として湧き出したものである。数十カ所にも及ぶ湧き出し口からの湧水だけで、1.2キロの河川を作り上げている。その先は狩野川との合流である。清水町をはじめ、沼津市、三島市、熱海市、函南町が水道水源として利用し、1日の湧水量は1日に100万立方メートルとも計算されている。また、工業用水、農業用水にも利用されている。水質については環境類型でAAクラス、種別でも水道1級というほどだ。それゆえに透明度もきわめて高く、川岸から水底に繁茂する水草の様子や砂を巻き上げて噴出する水の様子が観察できるほどである。おまけに、自然散策路の真ん中に水たまりがあったかと思えば、それが小さな湧き出し口であり、そこからまた小さな流れが始まっている現場にも出くわした。

 かつてはこの豊富できれいな水を使い、クレソン(オランダガラシ)の栽培が行われていたとのお話を杉野孝雄先生からうかがった。現在ではそのクレソンが生育範囲を広げているとのことである。また、ミシマバイカモやヒンジモの観察も行うことができた。

 きれいな泉のおかげで魚類も育ち、その魚類をエサとする野鳥たちも集まってくる。展望台からの観察では、コサギが現れ、片足で水底をかき回し、飛び出してきた魚を長く鋭いくちばしで見事に捕らえる様子を見ることができた。三宅 隆先生のお話ではヤマセミも現れることもあるとのことだったが、この日は残念ながら目撃することはできなかった。それでも、青い翼とオレンジの腹とを輝かせたカワセミも観察でき、川岸で赤い花を咲かせたヤブツバキの蜜を吸うメジロたちの姿も観察することができた。

 柿田川はそのたぐいまれなほどの上質な水質と豊富な水量とにより、多くの生き物を育てている。冬の観察のため、魚影はやや薄く、昆虫類も見られなかったが、魚類では30種以上、トンボだけでも30種以上の生息が確認されているそうである。

 柿田川は、静岡県内でも指折りの天然記念物的な存在であり、その湧水のしくみは地質学的にも大変興味深く、かつ、川に育つ動植物の種類はきわめて豊富である。もはや、柿田川ひとつだけで展示コーナーが作れそうなほどの資料を内包しているといっていい。富士山を水源とするこの湧水群による河川は、まさに静岡を代表する自然といえるだろう。ぜひとも、何らかの形で資料を収集し、三島の保存室に収納し、行く行くは博物館展示へとつなげたいと希望する次第だ。


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登録日:2004年5月4日

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