コラム
富士川河口にガーパイクあらわる
愛好家の心ない放流

岸本浩和(東海大学海洋研究所)・北野 忠(東海大学海洋学部)

最終更新日:2004年1月2日


 


 ガーパイクと呼ばれる淡水魚は、直接の祖先が約1億年前の上部白亜紀に現れました。その子孫はわずかに7種が現存するだけで、中・北米以外には分布していないはずです。そんな古代魚がなぜか富士川の河口にいたのです。

 この11月12日に富士市在住の牧田菊雄さんがスズキをねらって投網を打つこと十数回目でした。まずまずの感触で引き寄せてみると全長45.5cmのワニを思わせるような奇妙な魚だったので大変驚かれたといいます。幸いにも、牧田さんは獲物を大切に東海大学に持ち込まれました。そのため、その魚がガーパイクとわかり、将来建設が期待される静岡県立自然史博物館(仮称)の標本として保存することができました。

 古代魚といわれる貴重な魚をなぜ殺すのか?反対の方もおられるでしょう。私たちも、自然に分布する水域なら当然保護し、人為的影響から絶滅することは是が非でも避けなければならないと思います。しかし、日本は彼らの本来の分布域ではないのです。観賞魚として飼育してきた人が、大きくなりすぎて手に余り、殺すのは忍びなくて無責任にも放流したか、あるいは釣りの魚として増やしたいという欲望から放流したのかもしれません。

 今回の不法侵入者、ガーパイクはアリゲーター・ガー(Atractosteus spatula)と呼ばれ、成長すると普通2 m にもなる最大種です。ガノイン鱗という特殊な堅い鱗に包まれた身体は非常に硬く、細長く突き出た口には鋭い歯が2列に並んでいて、まさにワニを思わせる姿をしています。暑さ寒さに強いばかりでなく、海水にも強いと言われているので、これがまともに育ったとしたら、クロダイやスズキなど富士川河口の魚たちがどれほどの被害を被ることでしょう?まるで民家の周りにトラかライオンが放たれたのと同然で、日本の魚があまりにもかわいそうです。

 同じ北米産のブラックバスやブルーギルを日本に移植したために、全国各地で日本古来の魚が大変な被害を受けていることは、常識ある人達はご存知でしょう。アリゲーター・ガーは大きさといい姿といい、1億年をしたたかに生き抜いてきた強さと、想像される凶暴性は、ブラックバスを遙かにしのぐもののようです。

 これがどんなに貴重な古代魚といえども、日本の魚を保護するためには不法侵入者は処罰されるべきなのです。とはいえ、日本に連れてこられたあげく野外に捨てられ、侵入者として邪魔物扱いされるガーパイクこそ、一番の被害者なのかもしれません。ペットを飼育する方は、責任をもって最期まで面倒をみるという、最低限のモラルは守ってもらいたいものです。


自然史しずおか第3号の目次

自然史しずおかのindexにもどる

Homeにもどる

登録日:2004年1月2日

NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History