「田貫湖ふれあい自然塾」
施設見学と周辺自然観察会報告


三宅 隆・柴 正博

最終更新日:2003年10月28日


 7月6日(日)、いまにも降り出しそうな天気の下、大人16名小人4名の20名が富士宮市の田貫湖畔にある「田貫湖ふれあい自然塾」前の駐車場に集合し見学会を実施しました。

 まず、「自然体験ハウス」に入り、館内の概要の説明を受けました。


 この施設は環境省が進めている自然学校の第1号として2000年につくられました。『自然とのふれあい』に重点をおき、専門のスタッフによる自然体験プログラムと、充実した体験のためのビジターセンターおよび宿泊施設を併せ持つハード・ソフト一体型の施設です。自然体験を通じて、自然を楽しみ、学ぶことから、環境保全への関心を高め、それを日常の行動に結びつけることができるよう、さまざまな自然体験プログラムを展開されています。

 館内には富士山の自然コーナーがあり、ぬいぐるみの動物などが展示され、溶岩洞窟も再現されています。ここでは専門スタッフによる有料のフィールドガイドや体験プログラムも実施されています。また、敷地内にはコテージも建っていて、宿泊して研修などもできます。

 田貫湖ふれあい自然塾の管理運営にあたっては、環境省、静岡県、富士宮市、(財)休暇村協会、(社)日本環境教育フォーラムで構成する『田貫湖ふれあい自然塾運営協議会』が主体となって管理運営が行われていて、自然観察の指導などは富士宮市の野外活動指導会社の派遣スタッフが行っています。

 館内をしばらく見学した後、全員で小田貫湿原に移動し、自然観察会を行いました。植物は杉野孝雄先生、昆虫は高橋真弓先生、野鳥は三宅 隆先生と、豪華な講師陣でした。小田貫湿原の動植物の説明をうけた後、木道を歩きながら、ノハナショウブやクサレダマ、ヌマトラノオなどの湿地植物や、トンボやチョウの仲間、それにクロツグミ、ホオジロなどの野鳥を見ながら、散策を楽しみました。


 杉野先生の話では、小田貫湿原は最近湿地の縮小と植生の変化が起きていて、環境変化が急激に進んでいるということでした。その原因としては、湿原のわきの道路にコンクリートの排水溝ができて、小川からの伏流水がなくなったこととと、上流にできたキャンプ場の排水などで富栄養化が起きていることが考えられるそうです。このことから、参加者の中で小田貫湿原の植生を中心として生物調査の必要性が議論されました。

 小田貫湿原での観察会終了後、「田貫湖ふれあい自然塾」に戻り昼食をとり、午後は田貫湖で静岡県ではここしか残っていないという希少な植物ミツガシワという氷期のレリック(遺存種)の群生地を観察しました。また、湖畔にそびえたつ、山の中にそぐわない豪華ホテル「休暇村 富士」を見て、解散となりました。

 田貫湖は海抜660mにあり、昔は湿原がひろがり、タヌキがたくさんすんでいたので狸沼と呼ばれていましたが、昭和10年ころに灌漑と発電のために湖がつくられ、現在は東西1km、南北0.5kmの周囲4kmほどの大きさです。富士山の眺めがとてもよく、湖面に映る逆さ富士は有名です。

 この逆さ富士が見える場所には、見学や写真撮影ができるように湖面にテラスがつくられていました。また、豪華ホテル「休暇村 富士」はその高台にあり、おそらく逆さ富士がよく見えるようにと部屋の窓はすべて富士山の方向に向いていました。

しかし、湖面にテラスが設置されていた場所は、ちょうどミツガシワの群生地で、休暇村の建設やその後の人の踏み込みの増加などで、ミツガシワの湖面での分布範囲が狭められていて、田貫湖全体の植生も変化が生じているということでした。

 なお、田貫湖ふれあい自然塾についての問い合わせは、〒418-0107 富士宮市佐折633-14 Tel 0544-54-5410、ホームページはhttp://www.tanuki-ko.gr.jp/です。


自然史しずおか第2号の目次

自然史しずおかのindexにもどる

Homeにもどる

登録日:2003年10月28日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History