第2回総会記念講演会
静岡県にふさわしい自然史博物館のあり方

濱田 隆士(福井県立恐竜博物館館長)

最終更新日:2003年7月5日


濱田隆士館長  平成15年4月20日(日)午後1時40分から3時10分まで静岡商工会議所401会議室にて、静岡県自然史博物館ネットワークの第2回総会の記念講演会が行われました。第2回総会の記念講演として、放送大学教授で、福井県立恐竜博物館館長でもあり、また(財)日本科学協会理事長である濱田隆士先生においでいただき、「静岡県にふさわしい自然史博物館のあり方」というテーマで講演をしていただきました。

濱田先生には、平成13年秋に自然博推進協で福井県立恐竜博物館を視察させていただいた際にも、丁重に御案内いただき、静岡県における自然史博物館の必要性や静岡県らしい博物館のあり方などについてもお話をいただいたことがありました。

今回は、濱田先生がこれまで係わられてこられた神奈川県立生命の星・地球博物館や福井県立恐竜博物館などの実績も踏まえて、長時間にわたり、静岡県における自然史博物館のあり方についてお話をいただきました。

 この要旨は、濱田先生の講演に基づき、事務局で要約したものです。


静岡型博物館とは何か?

 神奈川県立生命の星・地球博物館の館長のとき、箱根にたくさんある博物館の館長さんたちによる談話会を作り、博物館相互の連携をはかった。これを拡大して南関東博物館ネットワークも構築したが、福井県立恐竜博物館の館長になって、同様のことをやろうとしたがなかなかできなかった。これは各地域、県レベルで政策の実施手法が異なり、ある県では当然のことでも別の県では違った手法がとられるためであった。それぞれの県独自のやり方があるので、それらをよく見極めて取り組む必要があるのではないだろうか。

 日本の博物館は、日本の文化や学術、技術、経済などと同様に欧米から輸入されたものであり、日本型とは、すなわち輸入型にほかならない。静岡県は日本列島のほぼ中央にあり、日本一高い富士山と日本一深い駿河湾がある。静岡県の博物館は静岡県のスタイルと顔をはっきりと見せることが重要ではなかろうか。

 物や人材、場所など予算的な制限が多くあり、これに加えて、大学をはじめ国立博物館や研究機関などの独立行政法人化の動きの中で、県で博物館をつくる場合には民間の活力を大いに使うことは当然のこととなるであろう。
 静岡県は周辺域に、すでに県レベルの大型の自然系博物館があり、これらに挟まれた格好になっているが、日本全体の自然史系博物館の分布を考えると日本の中央部(静岡地域)にぽっかりと大きな穴があいている状況にある。静岡県には、今は博物館がないが、できた時には最も進んだ博物館となる可能性もある。

 県立の博物館だからといって、県民だけをターゲットにしているようではいけない。県外からも多くの人が集まるような魅力のあるものにしなければいけない。勿論、より広範囲な広報活動も必要であろう。最近では博物館にも外部評価が行われ、人がどれだけ入ったかという数が重要視されるが、どれだけリピータを増やせるかが最も重要である。

 静岡県は東西に長く、深海から高山へとその自然環境も変化に富んでいる。しかし、県立の博物館のいざ目玉になるものというと、「これだ!」というものがない。まさか特産品のワサビを前面に出すわけにもいかないだろう。目玉となるものがなくてはならないが、それは、「特別大きいか、超珍しいか」のどちらかである。対象を海外に求めてみるのも一つの手かもしれない。

 エレクトロニクスなどの工学も自然の法則を利用しているので、工学まで範囲を広げてみてはどうだろうか。IT(インフォメーション・テクノロジー)が自然史を盛り上げたように、エレクトロニクスも自然史を盛り上げるのではないだろうか。

箱物になぜこだわらねばならないのか?

 博物館は「もの」を展示し、収納する建物が必要で、それはいわゆる箱物と呼ばれるものである。「博物館は箱物にこだわることはない」という考え方もあるが、箱物のない、いわゆるIT型やアウトリーチ(出張博物館)型だけでは博物館として十分ではない。また、最近の博物館の教育活動では、物に直接触れたり、解説員とマンツーマンで接したりするハンズオンの手法が取り入れられている。このような状況を考えると、財政的な問題もあり、箱物のハードと箱なしのソフトの利点を生かした中間の形態が考えられる。

 博物館には「もの」がなくてはならない。そして、その「もの」が語ることをいかに伝えるか、いかに魅力的に見せるかが重要なのである。

博物館活動が全てを握る

 イベントの後に、そのコアとなった施設がそのまま残って、博物館となった例がある。すでに博物館がある場合でも、そのような施設が博物館の分館や収蔵庫となる場合もある。

 博物館活動の中で、イベントを企画することは重要である。また、博物館の活動には中長期的な計画が必要であり、たとえ博物館が立ち上がったとしても5年先までの活動計画が決まっていないような博物館では長く持たないであろう。NPOの活動では、博物館をつくることへの意気込みはあるものの、見通しをつけにくいので、今後は博物館そのものの活動を中心においていくことが重要だろう。

 県立の博物館であっても国際的な視野がほしい。グローバルなことがわからなければローカルなこともわからないし、反対にローカルなことがわからなければグローバルなこともわからない。

生涯学習を生涯楽修と読み替えるべし

 私は、「生涯学習」を「生涯楽修」と読み替えている。学習とは学び習うことだが、博物館では教えてもらったり習ったりするのではなく、自ら楽しんで知識や研究を修めてもらえるように仕向けたい。たとえば、目の不自由な方に恐竜の大きさを知ってもらうために、音で体感できるシステムを採用したり、解説も書いてあることを読んでもらうだけではなく、音声で聞いてもらったり、さまざまな方法を試行すべきであろう。

博物館では今後、ハンズオンや体感を取り入れたユニバーサルデザインの展示が重要になるであろう。

これからの楽修姿勢は、超年齢・超領域を柱に

 博物館はオープンなものであり、世代を継いでいくところに博物館の意味がある。最近では、フリースクールのスタイルが盛んになり、自主的に個人などがつくる街角博物館も多く、これらが地域の特性を生かした街角博物館群を形成している場合もある。この様なミュージアムやスクールもこれからは重要になってくる。博物館における楽修姿勢は、年齢を超えて、領域を超えたところにこそ魅力がある。

 静岡県では、後からできる博物館として、これらのことを踏まえて、特色のある静岡方式の博物館を是非作っていただきたい。


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登録日:2003年7月5日


NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History